世界が終わる前の話
人生って不思議なもので。
昨日まで何の関わりもなかった人と、喋って見たら意外に趣味があったとか、偶然喋ってみたら面白い人だったとか。そんな風に仲良くなることがある。
「先輩、お疲れ様です!」
そんなことを考えている俺も、その例外ではない。
小学生から仲のいい友人と、高校まで一緒に上がった影響で新しいコミニュティを広げる必要もなく、そもそも広げる気も特になかった。
だけどある日、俺にもその現象が降りかかる。
「お疲れ……奥宮」
奥宮、名前も知らない同じ学校の一年生……俺は二年生だから後輩になる。
友達と学校生活を送っている俺だが、唯一田舎住みが災いして、登下校の時は一人になる。
バス停に着くのにも二十分、そこから更にニ時間に一本程度しか来ないバスのことを待つ必要がある。
そんな時はここでスマホをいじって時間を潰すしかなかった。
ただ、今年の春に事情は変わる。
同じバスに乗る奥宮が現れて、俺たち二人で待つことになったのだ。
四月の頃はお互い無関心、五月六月には会釈程度。
七月九月に挨拶を交わすようになって、つい最近奥宮に声をかけられた。
そこからはトントン拍子に話すようになって、今はこのバス停で暇つぶしとして話す関係になっている。
「あの、先輩。
明日世界が終わるなら何しますか?」
「え、急にどうしたの?」
あまりにも唐突な質問に驚く俺。
まあ、さっきまで仲が深まったみたいな言い方をしていたかもしれないが、俺は奥宮について特別何も知らない。
何なら俺も自己紹介したけど、多分忘れられてる。
だから、一生先輩呼びなんだろう。
そんな俺たちが毎日話していて話題が尽きない訳もなくこうして定番としても擦られすぎて、最早あんまり話題に上がらなくなったようなことを話してしまうのも仕方ないと言える。
「……世界が終わるなら。
まあ、特別何かを変えれるわけでもないから家の中でゲームとかして、そのまま寝るかな」
「なんか……つまんないですね」
「じゃあ、奥宮は何て答えるんだよ」
「私ですか?……そうですね」
奥宮は首を傾げて考え始める。
そういえば奥宮はなんて答えそうなものだろうか。
俺と同じく何もしない、はさっきの会話的に無さそうだしとにかく好きなもの食べまくる……も微妙そう。
家族とか友達と過ごす、これならありそうだと予想。
「悪いこと全部やりますかね」
「……それ、奥宮がしちゃダメなボケだから」
「そうなんですか?
とにかく、この質問ってもう解答がある程度固まっててつまんないですよね」
「まあ、そりゃあ長年受け継がれてきた定番質問だしね」
と、急に立ち上がる奥宮。
俺に向かって思いっきり指を振り下ろす。
「じゃあ私たちで、こいつやるな……って思わせる新解答を見つけましょう!」
何でここまでやる気なのかよく分からないが、実際俺も革新的な答えを出せるか気になるところだ。
「でもなあ、いくら終わるの確定って言われてても明日のことってちょっと考えちゃうじゃん。
だからそんなに無謀な答えって出づらいよね」
「じゃあ、無理のない範囲で革新的なこと……他県の郷土料理を作ってみるとかどうですか?」
「世界が終わる前くらい、自分の地域のものを食べたいな……」
「じゃあじゃあ、何かのトップを目指してみるとか」
「あまりにも遅咲きだなぁ……」
そんな風に話していると、バスのエンジン音が向こうから聞こえてくる。
どうやら、そろそろ到着するようだ。
その瞬間、奥宮の顔が俺の目の前まで来る。
「それじゃ、最後も先輩と過ごすとか……」
「もう、結局冗談ばっかじゃん」
「……冗談だと思います?」
その瞬間、バスが到着した。
呆ける俺を置いて、先に乗り込む奥宮。
急いでその後を追って隣に座る。
「ほら、私って意外と裏社会がテーマの漫画とか読むんですよ?」
「……冗談って、悪いことのほうかよ」
でもまあ実際、こうして奥宮と会話をしているのは何となく心地がいい。
正直、まだまだ何時間でも話せそうなくらいだ。
だから、何となくだけどまた明日が来ればいいな。
……ふと、そんなことを思ってしまうのだった。
良かったら他の作品もチェックしてね〜