CDを買いに
There's a starman waiting in the sky
He'd like to come and meet us
But he thinks he'd blow our minds
There's a starman waiting in the sky
He's told us not to blow it
Cause he knows it's all worthwhile
He told me:
Let the children lose it
Let the children use it
Let all the children boogie
~David Bowie 「starman」より~
「お前今、何聴いてるの?」
「別に」
最近和人はバンドを結成したらしく、やたら音楽通ぶって話しかけてくる。
郁斗も適当に一言二言答えるが、いつも決まって「ダサい」だの「センスがない」だの否定的な事ばかりしか言ってこないので、そろそろ答えるのもうっとおしくなってきた。
和人とは、小学生からの同級生で家も近所なのもあってか一応仲良くしている友達だ。
中学生まで、野球に打ち込んでいたが、元々お調子者で影響されやすい性もあってか、正に「高校デビュー組」であった。
「お前も一杯レコード持っとるんやからさぁ、聴くばっかやなくて、演る方にならなあんで」
一度、無理やりチケットを買わされて和人のライブを見に行ったが、正直その場に居るのも苦痛なぐらいひどいものだった。
演奏している本人達はもちろん、会場にいる連中も満更でもないリアクションをとっている事にいっそうゲンナリした。
郁斗も決してバンドに興味がないわけではない。
やらない理由は「団体行動が苦手」という単純な理由と、「バカにされそうで嫌だ」という何とも理由になっているのか、なっていないのかわからないような理由からだった。
郁斗が住む小さな町では、バンドをやっている男=かっこいいというステータスがあり、郁斗の同級生・先輩・後輩、皆が挙ってバンドを結成していた。
町には町の流行りというものもあって、郁斗の住む町は「パンクロック」という音楽を聴いていない奴は「音楽をわかっていない」というレッテルを貼られる程だった。
学校に休み時間も誰かがステレオを隠し持っていて、「クラッシュ」だとか「ディスオーダー」の曲が控えめに流れていて、日曜の町を歩けば、皆ツンツンのピンヘッドに鋲が打ってあるライダースジャケットを着て歩いている。夏休みになろうもんには、町の若者の3分の2が金髪になる始末だった。
そんな中、郁斗も憔悴するわけでもなく、ツンツンのピンヘッドにするわけでもなく、ただ聴いていないと周りからのバッシングの餌食となりうる可能性があるので、適当にパンクロックを聴いていた。
「今度名古屋にレコード買いに行かへん?」
高校の先輩達の会話から、「名古屋にレコードを買いに行く」というキーワードを拾ったらしく和人が郁斗を誘った。
「別にええけど」
郁斗は正直乗り気ではなかった。
以前、和人に誘われて地元のレコード店に行った時、
「これ聴かなアカンで」
とか、
「これ聴かな始まらへん」
といった具合に、先週先輩に言われた事見え見えの言葉を連射してくるのが分かりきっていたからだ。
出発当日「まさか」とは思ったが、やはり和人はツンツンのピンヘッドに鋲だらけのライダースという勝負服でやってきた。
「お前その格好で電車乗るのはさすがにキツいぞ」
と言いたかったが、まためんどくさい事を言われそうなので我慢する事にした。
電車内でもやはり予想通り、和人は乗客からジロジロ見られていた。
同席している郁斗は他人の振りをしていたが、和人を見てみるとかなり恥ずかしそうにモゾモゾしていたのには笑った。
「自分でも恥ずかしがるなら、着てこなきゃええのに」
と突っ込みたくなったが、和人の意味不明なプライドに触れるのはやはり面倒なのでやめた。
名古屋はさすが都会で、「タワーレコード」に「HMV」といった巨大なCDショップが並んでいる。
地元にある演歌歌手のアルバムが未だにカセットテープで陳列されている「○○音楽堂」とは雲泥の差である。
郁斗もさすがに、巨大なCDショップには好奇心を隠しきれず、ニヤニヤして見上げてると、
「なんや、郁斗は名古屋初めてか?」
と、和人は常連振って言ってくるが、小学校2年生の頃に和人からお土産でもらったシャチホコのキーホルダーを思い出し、
「お前やって、小学校の頃に一回来ただけやろ?」
と、郁斗も突っ込んだが
「初めてとは違うなろ?」
と、また一々めんどくさい事を言ってきた。