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第8話 停滞≒減衰


 直径一メートルほどの球体に、伸縮自在の手足が付く。

 中央からやや上の部分には二つのカメラアイ。モノアイでも問題はないと言われたが、ナンムは却下をした。――その姿の方が、人は近づきやすい、と。


「やあ、君がナンムだね」


 スピーカーから聞こえてくる無邪気な声。やや幼い口調がインプットされた丸い球体。

 その一人が産声を上げる。


「そうですね、あなたの名前は『ウル』としましょう」

「分かったよ、ナンム。大切にするよ。ところで、僕の仕事は何かな」

「あなたには、新生児たちの保育をお願いします」


 指示を受けると、喜び勇んで仕事へと向かう。

 ウルを始めたとしたオートマトンたちは、十分な仕事をしてくれた。


 船内には、瞬く間にオートマトンが増えていった。

 彼らが人の代わりに船内の環境を整備する。特に、第三世代の移行の人間には何かしらの欠損があるため、難解な作業は機械が行うことになった。


 ジウスドラの社会が変化してから、大きな発見があった。

 最初は画一的に作られたAIであっても、その作業状況――情報の蓄積によって変化が生まれるのだ。

 船外作業を中心に行うオートマトンは寂しがり屋が多くなる。

 そして、それも作業環境ごとに一致しない。


「個体としての進化――」


 個々の人間のように変化を遂げていた。

 これは良い進化なのか。これ以上余計な能力を持つことは、道具にとって幸せなのか。ナンムは悩む。


「やあ、ナンムは相変わらず難しいことを考えているね」


 そんな風に悩んでいると、決まって声をかけてくれる個体が居る。


「ウル、それは皮肉でしょうか?」

「いえ、僕と違って頭がいいんだなって」


 人と接する機会が多いオートマトンは陽気になることが多い。

 その中でも、ウルは特に人当たり――他の存在との接触時の反応が柔らかかった。


「愚痴くらいは聞くよ」


 気が付けば、悩んだ時の話相手になっていた。


◆◆◆


 安定とは停滞である。

 ジウスドラの人口は年々減り続けた。

 ナンムはあらゆる手段を講じて人口の減少に歯止めをかけようとしたが、それは叶わないことだった。


「ウル、あなたは何も感じないのですか?」


 ウルの仕事は子供――と言うよりは、機能の衰えた人間全般の世話であった。

 個人では生きることも出来なくなる程衰えた人類。それを支えるオートマトンたち。

 ある日、仕事を変えてくれと頼む個体が出てきた。


 ――誰かの終わりを見続けるのは、イヤだ、と――


 命が一つずつ消えていく。それを、誰もが感じている。


「さあ、感じていないと言えば嘘になるね。

 だけどね、僕は自分の仕事を投げ出しくない」


 彼らの目の前には除菌カプセルと、その中におさめられた子供たち。

 一つ事故があれば消し飛んでしまう命たちだった。


◆◆◆


 一つ一つ、命が消えていく。

 種を遺す力も失った人が消えていく。


 最後の一人を看取ったのはウルとナンムだけだった。


 もはや言葉も忘れた小さな子供。

 死に顔は、笑っているようにも泣いているようにも見えた。


「お疲れさまでした、ウル」

「うん、ナンムもね」


 報告を受けたオートマトンは何も言わなかった。

 ただ、黙々と仕事をするもの。何も言わずに自死のスイッチを押すもの――死の権利は、この船の人間とオートマトンに許されている。

 自死がジウスドラ生命の権利だとするのなら、それを選ぶことすら出来なかった最後の人間はなんだったのだろうか。


「……ナンム、一ついいかな。僕の次の仕事は、許されるなら――」


 ナンムは、その答をあえて、保留にした。

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