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第6話 暗雲

 旅は続いた。

 遥か彼方から届く光の波を頼りに、ジウスドラは宇宙を往く。

 時折、奇跡的な確率ですれ違う星の欠片や資源の欠片を回収しながら旅を往く。

 船の中では決められた役割を振られた住民たちがそれぞれの仕事を全うしながら生きていく。

 旅立って十年も過ぎればある程度船内作業のノウハウも積み重なる。船内にはようやく娯楽を楽しめるだけの空気が生まれて来た。

 クルーが密かに持ち寄った地球の文化――映画であったり、書籍のデータの発掘が活発に行われるようになった。


 思えば、この頃がジウスドラにとっての全盛期であった。


 二十年程の時間が過ぎた。変換点は第三世代の誕生と共に生まれた。

 


 第二世代――宇宙で生まれた人間の番が結婚し、出産を行った。

 かつて第二世代が誕生した時と同じように、船内は新たなる生命の誕生を今か今かと待ちわびる。

 だが、いくら待とうと赤ん坊の産声は聞こえてこない。

 生命は確かに誕生した。だが――


「この子は――声をあげることが出来ない」


 医師からの報告が周知された時、ある人は泣いた。夫婦の家族は母を励まし、父に協力を約束する。


 ――そう言うこともある。


 船の皆は、新生児の未来を守ることを約束して、その日は終わった。

 だが、話はそこで終わらない。

 翌年、新たなる子供が生まれた。

 その子は、足が動かなかった。

 その段階で、一部の人間の頭には嫌な予感が過っていた。そして、その予感は遠くない未来に確信へと変わる。


 第三世代の子供は、身体、もしくは脳機能に何かしらの障害を持って生まれてくる可能性が非常に高かった。

 宇宙と言う未知の生活環境。船の中と言う限られた空間での後天的な遺伝子の変異。医師は仮説を立てて自ら絶望を確認した。


◆◆◆


 第三世代の誕生から同時期、一つの悪い発見があった。

 旧宇宙港区画――かつて地球教のテロリストが潜伏していた場所から、とあるものが発見された。


 古びた地球儀。


 地球教にとって、地球儀は唯一存在を許された偶像である。仏像や聖母像のようなものだ。彼らが潜伏していた場所に地球儀が残っていることはおかしなことではない。地球の異物を収集することは文化的な価値があり、それも悪い事ではない。

 唯一悪いことがあったとしたら、それを発見したタイミングであった。


 第三世代の遺伝子的欠陥。それが明らかになった時期に発見された望郷へと繋がる異物の発見。

 地球教の亜種ともいえる新興は、瞬く間にジウスドラの内部に広がった。


「博物館を造りたい、ですか?」


 その報告を受けた時、ナンムの持つ情報では何ら問題はない、と判断をした。

 だが、同時に一つの恐怖が生まれる。


 ――地球と言う揺り篭を思い出した時、ヒトは旅を続けられるだろうか――


 その可能性を切り捨てて、作業はすさまじい早さで進められた。

 出来上がった博物館のエントランスには、古びた地球儀が鎮座している。それを見るために、人々は訪れ祈りをささげる。

 そこは、博物館ではなく神殿であった。


◆◆◆


 ――この旅は、いつまで続きますか。


 ――何故私たちは、旅をするのですか。


「また、ですか」


 管制室に届いたメッセージを整理しながら、ナンムは知らず知らずのうちに音声を発していた。

 キャプテンが存命であれば、人間臭くなった、と笑われていたことだろう。

 けれど、今の管制室には鷹揚な老人の姿はない。

 欠伸をしながらモニターを監視するスタッフが数人だけ。


 安定は油断を産む。常駐するスタッフは、年々減り続けた。

 彼らがその間何をしているかと言うと、博物館へと脚を運んでいるのだ。


 日に日に影響が強くなる望郷の願い。

 それは、確実に船内に悪い影響を与えていた。


 不満の爆発は、思ったよりも早かった。

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