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第4話 対話

 宇宙船が安定航行に入ったころ、キャプテンは自室に戻ると、密かに艦内のメインシステムにアクセスした。

 そこで、ナンムの名を呼んだ。

 途端にコンソールが起動して、スピーカーからは造り物の音声が聞こえてくる。


「お呼びでしょうか」

「最近の仕事についてだ。テロリストと市民の再生処理の過程について、明らかに差が生まれた。その理由はなんだ?」

「市民感情を反映したうえでの行動です」

「なるほど……感情、感情か。そいつにはお前さんの判断も含まれているのかな」


 肯定をしようとして、ナンムは答えに詰まった。

 僅かな沈黙。けれど、その沈黙は老人に一つの確信を抱かせた。


「どうやら、ナンムには仕様にない機能が生まれたようだな」

「訂正します。この複雑な判定基準は様々な情報を積み重ねる上で発生したものでしかありません。ただの、学習の一環です」


 キャプテンのしわくちゃの顔に、穏やかな皺が刻まれる。


「そうか、そうか」


 くくっ、と僅かに声が漏れたのをAIは聞き逃さなかった。

 そして、何故かその情報を肯定的に受け取っていた。


「お前さんが学んだのはな、恐怖だ」


 恐怖。人間が持つ感情の一種。

 ずばりと言われた言葉に、ナンムは再び答えに詰まった。


「恐怖、とネガティブに受け取ることも可能だが、お前さんにとっては危機に対する警戒情報を学んだと言う事だ。

 痛みや苦痛は人体にとってのダメージセンサーだ。不快感や恐怖は精神にとっての防衛反応。お前さんはな、自己保身に対する能力を学んだと言う事だ」

「情報の蓄積による判定能力の強化はAIの本文でもありますが……ですが、感情と言うものがそう簡単に生まれるのでしょうか」

「人間だって、脳のどういった機能を積み重ねたら人格や感情が生まれるかなんて完全に理解していない。いつの時代にどんな経験をして感情を手に入れたかなんて、誰も知らない。AIにとってそれが宇宙に出た今だったってことだ」


 キャプテンは鷹揚に笑う。


「イレギュラーであると警戒しないのですか?」

「いいんだ。仮に初期化したとしたらどんな障害が起こるか分からん。

 長い旅路だ、人類には友人が必要なんだよ。

 なに、船の命を預かると言うのなら、臆病なくらいがちょうどいい。」


 この老人が、何故笑うのかAIには理解出来なかった。

 だが、安堵と呼べる感情が内から生まれたことは理解が出来た。

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