世界が救われた後のお話
午前一時。
誰もが寝静まったこの時間に、ひっそりとそのお客は来店する。
「いらっしゃいませ」
店主はお客を快く受け入れた。
そのお客が来店するのは、一度や二度のことではなかった。もう慣れていたのだ。
「また前回の続きからよろしく頼む」
「えぇ、喜んで」
店主は笑顔を見せ、店の奥にある仕立て部屋へと案内した。
仕立て部屋の戸棚に大事にしまってあった作りかけのぬいぐるみと素材を取り出し、お客に手渡した。
そのぬいぐるみは、かつてこの世界を救ったとされる勇者のぬいぐるみだった。
お客はそれを大事そうに受け取った後、ぬいぐるみを作り始めた。
「数日に一度訪れては、少しずつ作っていったこのぬいぐるみも、もう少しで完成ですね」
真剣に勇者の衣服を縫っているお客に、店主は語りかけた。
「あぁ。そしたら次は此奴の仲間を作らねばな」
「あなたは本当に勇者様がお好きなのですね」
「私は此奴に命を救われたからな」
お客は勇者の衣服を縫いながら、真面目に答える。
あとでぬいぐるみに着せた時に着苦しい想いをさせないようにと、事前につけた印に沿って。
勇者本人の衣服は装飾が多く、細かい部品を色とりどりの糸で縫わなければならなかった。
お客は手を止めては、どのように縫えば良いか店主に尋ねた。
そうして衣服を作り上げ、最後にぬいぐるみ本体に縫い合わせ、完成させた。
「出来た。遂に出来た、か」
完成した勇者のぬいぐるみを両手に取りながらお客は呟く。
「おめでとうございます」
店主がそう告げると、お客は口角を上げ、有難うと返事をした。
「手縫いの練習から長い年月を経て、遂に完成しましたね」
「あぁ。自分で作ったからか、どの宝石や財産よりも一等輝いて見える」
「手作りだと愛着がわくものですよ」
「そうか、これが作るということなのか」
お客は気がついたように呟いた。
難問の答えを導き出したかのような達成感を得たようだった。
瞳を輝かせているように見え、店主も不思議と誇らしく感じた。
「しかし、且つては魔族を統べていた貴方が、こんな街の一角にあるぬいぐるみ店に来たときは何事かと存じました」
「ここではぬいぐるみの指南もしてくれると聞いたのでな」
「なるほど。月に一度のぬいぐるみ教室のことですね。それでこの店に訪れたと」
店主は当時のことを思い出しながら、納得した。
一年ほど前、深夜に店の扉を叩かれた時、店主は肝を冷やした。
しかし魔王は破壊の魔王としてこの店にやってきたのではなく、自分に縫い方を指南してほしいと依頼してきた。
勇者のぬいぐるみ、そのものは商品として陳列していたが、魔王はどうしても自分で作りたいと言っていた。
その時、事情を聞くことは出来なかったものの、訳ありだと思った店主は、魔王をお客として受け入れた。
「そもそも、どうして自分でおつくりになろうと?」
かつて聞くことの出来なかった疑問を、お客に投げかける。
「勇者に創造する事を提案されたのだ」
「勇者様に?」
お客は頷き、天を仰いだ。
「激闘の末、滅ぶべきだった私に、勇者を差し伸べた。破壊しか知らなかった私に、創造の楽しさを説いてくれた。ならば創造とは何か、私は確かめなければなるまい」
店主は一言、なるほどと返した。
「お客様の手腕なら、そろそろ私が御指南する事もないのでは?」
裏の想いなく、店主はお客に言ってみた。今更、お客が怖くなったわけでもない。
お客はその言葉に対し、何を言うかと反論した。
「城では落ち着いて作る場所がない。私がそうだったように、配下もまた破壊する事しか出来ない者達だからな」
お客の回答に、店主はなるほどと返した。
しかし、魔王は他にまだ言い足りないようにしていたので、店主は言葉を待った。
「それに、私はこうしてお前と話しながら作るのも楽しかった思うぞ」
「……野暮な事を言いましたね」
店主は照れ混じりにそう返した。お客は全くだと微笑み返した。
空が明るくなり、鳥が鳴き始めた。それがお客にとって帰る時間の合図だった。
「ではまた来る」
「えぇ、またのお越しをお待ちしております」
静かに店を去るお客に、店主はそう告げた。
深夜に目が覚めてふと思いつき、眠れないので書いてました。
勢いだけで作った作品ですので、特に細かい設定はないし、ツッコミどころも多いかもしれません。
創作、楽しいですよね。作るときの楽しさや、出来上がったときの達成感は、何物にも代えられないものだと思っています。
魔王様には今後も作る喜びを知っていってほしい。