その49の1「カイムとミミィ」
「信じられませんよ。そんなの。
私にどれだけの嘘をついていたんですか? カイムさんは」
「事情が有ったんだよ……! 俺たちトモダチだろ……!?」
「…………そうですね。お友だちですね」
「だったら」
「それとこれとは別問題です」
「ぐぅ……。本当に今はまずいのに……」
カイムはなぜか焦る様子を見せていた。
いくら焦っても、脚にしっかりと絡んだ鎖はびくともしない。
カイムが動けないままで居ると、そこへ人影がいくつも近付いてきた。
「レオハルトさん……? それに……」
一団の先頭で、少女が口を開いた。
ジュリエットだ。
その後ろには、ターシャとカゲトラも同行していた。
そして……。
「カイムさん……?」
ジュリエットの隣。
彼女に手を引かれる格好で、カイムが立っていた。
「カイムさんはここに……」
ルイーズは、自分が拘束した方のカイムを見た。
確かにそこに居る。
幻覚などでは無いようだ。
一方で、ジュリエットに手を引かれているカイムも、幻などでは無いように見えた。
「カイムさんが二人……?」
「……バレちまったか」
カイムが諦めたかのようにそう言った。
「どういうことですか?」
ナスターシャがそう尋ねた。
「カイムって双子だったの?」
ジュリエットがそう言った。
「違うが。その説明の前に、
このならず者どもを警察に引き渡しても良いか?」
「ならず者だって……?」
事情を知らないジュリエットが驚きを見せた。
「まあ、いろいろあってな」
説明を後回しにして、カイムは応援を待った。
するとすぐにみゃーみゃーと猫の群れがやってきた。
猫たちはそれぞれが、猫車を引いていた。
猫車の扉が開いた。
そして中から、警官姿の一団が姿を見せた。
エミリオたちは彼らの手で、猫車の中に放り込まれていった。
巨体を持つブラックキマイラは、普通の猫車には入りきらない。
それで屋根の無い特別な車に乗せられた。
カイムは警官姿の人々の中に、見知った顔を見つけた。
ナタリー=パルヴァー。
何度も作戦を共にした、カイムの同僚だった。
「お疲れ様です」
カイムはナタリーに近付くと、小声で話しかけた。
「あの塔はレオハルトさんが?」
「まあ、はい」
「いきなり大魔獣を運べだなんて、手加減して欲しいですね」
「すいません」
手際よく賊の収容を終え、警官姿のエージェントたちは、猫と共に去っていった。
……。
「それで……」
ルイーズは、氷の塔が建っている空き地へと目を向けた。
そこからもう一人のカイムが姿を現した。
秘密情報部にも、カイムの力を知らないものは居る。
そういう人たちへの配慮として、片方のカイムは姿を隠していたのだった。
彼が合流したことで、カイムは再び二人になった。
「どうしてカイムさんが二人いらっしゃるのでしょうか?」
「双子だからってことでまからんか?」
カイムが冗談めかして言ったが、ルイーズは譲らなかった。
「まかりませんね」
「……はぁ。ミミィ」
カイムは短い言葉を口にした。
どうやら名前のようだ。
するとルイーズと一緒に居た方のカイムが、その姿をぐにゃりと崩した。
カイムだったものは、靴から髪先まで全て、銀色の液体金属に姿を変えていた。
「これは……?」
「こいつは大魔獣、ミミックスライムのミミィだ。
人に擬態して、油断させて犠牲者を増やしていく。
おまけに普通に戦ってもメチャクチャ強い。
そんな厄介な魔獣だが、俺の使い魔だ。
俺はミミィを
自分の手足のように自由に操ることができる。
好きな言葉を喋らせることもな。
さっきまでルイーズと一緒に居たのは
このミミィの方だったってわけだ」
「すると、怪我をしてもだいじょうぶだったのは……」
「ミミィの擬態だ。
本来のこいつは、あの程度の攻撃で傷を負ったりはしない。
やられたフリをして隙を突くつもりだった。
そこをルイーズが……」
「レオハルトさんが?」
ジュリエットがルイーズを見た。
「そこはもう忘れてください!」
さきほどの事をよほど掘り返されたくないのか。
ルイーズは大声を上げて、次にこう付け加えた。
「……デリカシーが無いですよ。カイムさんは」