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95/104

その48の2



 自分たちは、とっくの昔に負けていた。



 レオハルトさんの前に立った時から負けていたのだ。



 エミリオはそのことを理解していた。



 それを事実として受け入れ、せめてもの譲歩をルイーズから引き出そうとした。



「っ……部下の命は見逃してくれ……!


 きみの学友を手にかけたのは、ぼくの使い魔だ。


 それに、部下たちはもう戦えない。


 殺す必要は無いだろう……?」



「なるほど。うん。


 そうかもしれないな。


 だが知ったことか。死ね」



 ルイーズはにこやかに、エミリオの頼みを蹴りつけた。



「鬼! 悪魔! レオハルトさん!」



「キサマの囀りにも飽きたな。そろそろ終わりにしよう」



 ルイーズが、何かを掴むような仕草を見せた。



 そして腕を動かすと、それに応じて大鎌が動き始めた。



「~~~~ッ!」



 大鎌はエミリオに迫った。



 あと一秒を待つこともなく、エミリオは血肉を撒き散らすことになるだろう。



 だが。



「ちょーっと待った!」



 場違いなほどに日常的な声が、ルイーズの耳をふるわせた。



「カイム……さん……?」



 大鎌はぴたりと停止した。



 青く青く輝いていたルイーズの瞳が、その輝きを弱めた。



「こいつらは、捕虜として役に立ちそうだ。


 殺すのはちょっと待ってくれないか?」



 何事も無かったかのようにそう言うカイムを、ルイーズはふしぎそうに見た。



「あの……どうして平気なのですか?


 まあまあ致命傷を負っていらしたような気がしないでもないのですが」



「それはまあ、こう見えてトップエージェントだからな。俺は。


 首が折れたくらいじゃ死なないんだ」



「なるほど。勉強になります」



「しっかし凄かったなぁ。ルイーズ。


 本気だすとこんなことになるんだな」



 カイムが楽しげにそう言うと、ルイーズは頬を赤らめた。



「……はしたない所を見せてしまいました。


 魔力を多く使うと、


 なぜかテンションが上がってしまって……。


 その、忘れてください」



(邪眼の説明に有ったな。


 性格が変わるみたいなことが)



「しゃーない。


 ところで……ずいぶん高い所まで来ちまったな。


 どうやって下りるんだ? コレ」



 カイムはそう言って、屋上の縁から地上を見た。



 吸い込まれそうな絶景だ。



 カイムが高所恐怖症だったら、気を失っていたかもしれない。



「転移の魔術でお送りしましょう」



「え? 転移って難しい魔術だろ?


 けっこう人数居るけど、だいじょうぶなのか?」



「まあ、この程度なら。


 人を飛ばす時は、相手に触れていないと難しいのですが」



「それじゃあ頼む」



 ルイーズは氷を器用に使い、気絶した連中を一箇所に集めた。



 そして彼らに触れて、転移魔術をかけていった。



 最後にカイムに触れると、二人で空き地の前の道路へと転移した。



「おお、すげえ。一瞬だな」



「お粗末さまでした」



(それじゃあストロングさんに連絡するか。


 少なくともバドリオはハーストで確保しておきたい)



 カイムはポケットから遠話箱を取り出し、ジムに遠話をかけた。



「パパ。ちょっと良いですか?」



 カイムがそう言うと、ジムは即座に念を飛ばしてきた。



(いきなりどうした?)



(エミリオ=バドリオとその使い魔のブラックキマイラ、


 それと部下を10数人ほど確保しました。


 人を寄越してください)



(マジか?)



(マジです。キマイラをやったのは俺じゃなくてルイーズですが)



(レオハルトさんか……。


 分かった。至急人員を送る。


 けどブラックキマイラか……。


 おおごとだな。これは)



 ジムとの念話を終えると、カイムはルイーズに声をかけた。



「ルイーズ」



「はい」



「ちょっと急用ができた。


 すぐに戻って来るから、ここで待っててくれ」



 カイムはルイーズの前から走り去ろうとした。



 だが。



「あの……走れないんですけど?」



 カイムは上半身をひねり、ルイーズの方へと振り向いた。



 カイムの脚に、氷の鎖が絡みついていた。



「知ってますから」



「うん?」



「正体がバレたスパイがどうするかって知ってますから。


 行かせません。


 これで終わりだなんて、嫌です」



「いやいや。ほんとうにすぐ戻ってくるから。


 ちょっとだけ、さきっちょだけ行かせてくれるか?」



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