その47の2
「く……! くそおおおおおぉぉぉっ!」
やけっぱちのような気迫と共に、トマたちはカイムに襲い掛かった。
戦闘……と言うにはあまりにもなめらかに。
トマたちは魔弾銃に撃ち倒されていった。
ほんの数分後には、トマたち全員が地面に倒れ伏していた。
「ぐ……あぁ……」
カイムの視線の先で、トマが呻き声を上げていた。
カイムが使う雷の魔弾は、鎮圧能力に優れ、殺傷能力では他の属性に劣る。
カイムに倒された者たちの中に、死者はいなかった。
(さて、これからどうするか……。
捕虜にして、仲間に引き渡すべきか?)
「うーん……」
急に舞い込んできた厄介ごとに、どう始末をつけるべきか。
カイムがそう悩んでいると……。
「お強いですね。
さすがはハースト共和国のエージェントさん」
ぎくりとするような言葉を、ルイーズがかけてきた。
カイムは首をぎぎぎとルイーズの方に回し、こう弁解をした。
「…………えっと。
俺がハーストのエージェントだっていうのは、
こいつが勝手に言ってるだけの事なんだが?」
「いまさらその言い訳は、通らないと思いますが」
「悪いが、話は後にしてくれ。
まずはこいつらを……」
カイムが言葉を言い終える前に。
どん、と。
空き地に着地した何者かが、土煙を巻き上げた。
突然に飛来した巨体を、カイムは注視した。
それは魔獣だった。
そのキマイラと呼ばれる獣は、獅子の頭、山羊の胴、蛇の尻尾を持っていた。
現れたのは、ただのキマイラでは無かった。
通常のキマイラより遥かに大きく、そして黒い。
(ブラックキマイラ! いや、それより……)
カイムはブラックキマイラの背の上を睨んだ。
そこにスーツ姿の男が腰を下ろしていた。
見知った男だ。
カイムはその名を叫んだ。
「エミリオ=バドリオ!」
向こうがどう思っているのかは知らないが、カイムにとっては因縁の相手だ。
カイムは憎々しげにエミリオを睨みつけた。
対するエミリオは、紳士的な物腰でカイムに言葉を返してきた。
「こんにちは。ハーストのエージェント」
「おまえもこいつらのバカな計画に乗ったのか?」
「いや。今日は部下からの定時連絡が無かったからね。
それで何か起きたのかと思って、
様子を見に来たところさ。
さて、命令に背く不出来な子でも
ぼくにとっては可愛い部下だ。
きみたちに渡すわけにはいかないね」
「そうかよ……!」
(こいつもテイマーだったのか……)
カイムは妙な気分になりつつも、キマイラに魔弾を発射した。
だが。
「ブラックキマイラは稀なる獣、大魔獣だ!
魔弾銃など効きはしないよ!」
「チッ……」
キマイラは魔弾を弾きながら、カイムへと突進した。
このスピードと質量を、とても止められるものではない。
そう判断したカイムは、側面への回避を試みた。
カイムの回避を見たキマイラは、前足を踏ん張らせ、自身の体を急停止させた。
そして体を回転させると、後ろ足でカイムに襲いかかった。
カイムはステップでキマイラの蹴りを回避しようとした。
だが。
「甘い」
「がっ……!」
足を避けたと思ったカイムに、キマイラの尻尾が襲いかかった。
それは達人が操る鞭よりも鋭く伸び、カイムの首をしたたかに殴打した。
たかが尻尾でも、ブラックキマイラは大魔獣だ。
その一撃は、並の魔獣の攻撃を凌駕する。
そして今のカイムは、防具を身につけてはいない。
カイムの首から嫌な音が鳴った。
カイムは受身も取れず、ゴロゴロと地面を転がった。
「……………………」
カイムは立ち上がれなかった。
そのはずだ。
カイムの首は、曲がってはいけない方向に折れ曲がっているのだから。
「カイムさん……?」
ルイーズは呆然と声を漏らした。
そして我に返ると、倒れたカイムに駆け寄った。
「カイムさん!」
ルイーズはオリハルコンリングから薬瓶を取り出した。
そしてなんらかの薬品を、カイムの口へと流し込んだ。
おそらくは回復ポーションだろう。
だが薬を流し込まれても、カイムの負傷が癒やされる様子は無かった。
手遅れだったのか。
「そんな……」