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その46の2


 ルイーズはトマに続いて小道へと向かった。



 小道に入っていく寸前、ルイーズはカイムの視線を感じたような気がした。



 きっとただの自意識過剰だ。



 そもそも、カイムが視線を送ってきたら何だというのか。



 知り合いを見かけたら、つい視線が向いてしまう。



 そんなことに、何の意味も価値もない。



 そのはずだ。



 そう思ったルイーズは、カイムの方へ振り返ったりはしなかった。



 ルイーズはトマと共に、雑然とした区画を歩いて行った。



 やがてトマは、広い空き地へと入って行った。



 空き地の地面は、しっかりとならされていた。



 何かの建設予定地だろうか。



「ここがゴールだ」



 そう言って、トマはルイーズへと向き直った。



「ただの空き地のように見えますが……」



 とてもデートスポットには見えない。



 ルイーズは怪しむような視線をトマへと向けた。



「うん。ただの空き地なんだ。


 悪いね。レオハルトさん」



 トマは指を鳴らした。



 するとルイーズたちがやってきた道路の方から、複数の人影が現れた。



 人影の正体は、武器を持った覆面の男たちだった。



 ルイーズが男たちに包囲されると、トマがこう言った。



「実は俺、とある組織のスパイなんだ」



 どうやらスパイというのは、どこにでも居るものらしい




 ……。




「スパイ?」



 ルイーズは疑問の声を発した。



「うん。スパイなんて、映画の中だけの存在だと思った?」



「いえ。私はクリューズの皇女ですからね。


 国家が運営する組織に関しては


 ある程度は把握していますよ。


 それでスパイのトマ=テーヌさんが


 私に何の御用でしょうか?」



「見てわからないかな?」



 ルイーズを囲んだ男たちは、みなが物騒な武器を手にしている。



 ロクでもない用件だということは、誰が見ても明らかだった。



 ルイーズは自身の想像の中から、なるべく穏当なものを選んだ。



 そしてトマに確認を取った。



「誘拐でしょうか?」



「そんな危険なことができるわけ無いでしょ?


 悪いけど、きみにはここで死んでもらうよ。


 レオハルトさん」



 トマの仲間が、足元に魔法陣を発生させた。



 空き地の周囲が、オーロラのような壁に囲まれた。



(人避けの魔術ですか)



 瞬時に魔術の正体を見破ると、ルイーズはこう尋ねた。



「どうして今なのでしょうか?」



「うん?」



「あなたと私は、


 去年からのクラスメイトですよね?


 私に接触しようと思えば、


 その機会はいくらでも得られたはずです。


 特に、パーティを抜けてからの私は孤独な存在でした。


 優しく声をかけられれば、


 簡単に篭絡されたかもしれない。


 そのように思われるのですが。


 弱った女の心につけいるのは、


 フィクションの世界では


 スパイの得意技のようですけど」



「本物のスパイの仕事は地味なんだ。


 女ばっかり口説いてはいられないさ。


 それで、去年きみをやらなかった理由?


 隙を見つけ次第やってやる……なんて、


 そんなふうに思いあがってた時期も有ったね。


 俺も。


 だけどそんな気持ちは、


 すぐに萎んでしまった。


 入学式の日に、実物のきみを見て、


 その絶望的な迫力を前に


 格の違いを思い知ったのさ。


 俺のような凡人では、


 どう足掻いてもレオハルトさんには勝てない。


 それが分かってしまった。


 それからの俺は、しがない下っ端の連絡係さ。


 映画や小説には出てこない方の、


 地味で目立たない、本当のスパイ。


 いや、そういうスパイを題材にした小説も有ったはずだけどね。


 ……なんだったかな? タイトルは。


 とにかく俺は、そんな存在に成り下がってしまった。けど……。


 そんな冴えない俺にも、やっとチャンスがやって来た」



「チャンス?」



 まったく何のことだかわからない。



 そんな様子でルイーズが尋ねた。



 するとトマは、こう尋ね返してきた。



「レオハルトさん。きみは弱っているね?」



「…………はい?」



「隠しても無駄だよ。


 今のきみからは、


 以前のような迫力が感じられない。


 負傷しているのか……それ以外の原因が有るのか……。


 きみしか入れないようなどこかの隠しダンジョン、


 その地下5000階あたりで


 外なる邪神とでも戦ったんじゃないのかな?


 恐るべき強敵を前に、


 さすがのレオハルトさんも負傷してしまった。


 今は深い傷を癒やすために


 一時的に力を失っている。


 そんなところじゃないのかな?」



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