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その46の1「ルイーズと穴場スポット」



「そうなんだが、何だか妙な予感が……」



 カイムは漠然とそう言った。



 するとジュリエットは、まくしたてるようにこう言った。



「予感? 嫌なことが起こりそうってこと?


 それが何なの?


 彼女はあのレオハルトさんなんだよ?


 何か事件に巻き込まれたとしても


 自力でなんとかできるに決まってる。


 カイムが首を突っ込んだって、


 足手まといになるだけだよ。


 そんなことを気にするよりは、


 私たちのデートを楽しんだ方が良い。


 そうでしょ?」



(あのレオハルトさんって、どのレオハルトさんだよ……)



 ルイーズは優れた魔術師だ。



 カイムはダンジョン実習を通してそれを理解していた。



 今カイムたちが潜っている程度の階層では、彼女の底を測ることはできない。



 それくらいの潜在能力を、カイムはルイーズから感じ取っていた。



 だがそれは、彼女を心配しない理由にはならない。



「ルイーズにだって


 弱点の一つくらい有るかもしれないだろ?」



 優れているからといって、窮地に陥らないと限ったわけではない。



 幾多の修羅場を経験しているカイムには、そのことが良くわかっていた。



「その弱点を、今日たまたま突かれるって?


 そんな予感がしてるの?


 キミは自分の直感というものを


 ずいぶんと信頼しているんだね?」



「それは……」



 エピックセブン、カイム=フィルビーは、秘密情報部最強の戦闘員だ。



 荒事のプロフェッショナルだ。



 プロの直感というものは、シロウトの思いつきやなんとなくとは次元が違う。



 特別な才能と言っても良い。



 カイムは身近な先輩からそのことを学んでいた。



 とはいえカイムは、その先輩ほどの鋭さを自分が持っているとは思っていない。



 それに、ジュリエットに自分がスパイだと明かすわけにもいかない。



 どうやって彼女を説き伏せたら良いのか。



 カイムが言葉に詰まっていると、ジュリエットはさらに言葉を続けた。



「……そもそも本当に、そんな予感が有るのかな?


 カイムはレオハルトさんが


 他の男とデートをするのが


 嫌なんじゃあないの?


 カイム……。


 カイムはまた……私の顔に泥を塗るつもりなのかな……?」



 快活なはずのジュリエットの瞳が、どろりと濁ったように見えた。



(また? またって何だ?)



 戦闘に特化したカイムの直感は、思春期の少女に対しては働かない。



 ジュリエットが何を思っているのかなど、カイムにはわからなかった。



 それでただ、ジュリエットの表層に対してのみ答えることに決めた。



「妨害するほど嫌だと思ってたら


 デートの前に止めてるぜ」



「そう? だったら良いよね?


 ただの勘なんでしょ?


 そんなのでデートを邪魔するなんて、


 絶対に良くないよ」



「それは……」



 カイムはまだ迷う様子を見せた。



 すると。



 ナスターシャの手中で、ナイフがぎらりと光った。



(もし再びジュリエットさまを傷つけるようなら


 タダでは済ませませんよ……!)



 彼女の殺気がカイムに向かった。



(可愛い殺気だな)



 少女の殺気など、カイムにとってはそよ風でしかない。



 反応を返すのもめんどうで、カイムは殺気に気付かないフリをした。



 それをカイムの鈍感さによるものと判断したのだろうか。



 ナスターシャは呆れたような顔で殺気をおさめた。



(しかし俺も、ジュリエットを悲しませたいワケじゃ無いんだよな。さて……)




 ……。




 時を少しさかのぼる。



 カイムがルイーズを目撃するよりも、ほんの少しだけ前。



「あっちにさ、良い店が有るんだ」



 トマはそう言うと、建物の間の小道を指差した。



「えっ……。そちらは大人向けの区域ですよね?


 学生がデートで向かうような所なのでしょうか?」



「穴場スポットなんだよ」



「ですが。あ……」



 そのときルイーズは、カイムが近くに居ることに気付いた。



(カイムさん……。楽しそうですね……)



 カイムはジュリエットと言葉を交わしているようだった。



 会話の内容まではルイーズの耳には入ってこない。



 だが和やかで楽しそうに見えた。



 カイムから遠ざかりたい。



 ルイーズはそんな気分になった。



 それでトマの提案を呑むことに決めた。



「それでは……行ってみましょうか」



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