その44の1「ロジャーとデートの顛末」
ルイーズは語尾を濁しながらカゲトラの方を見た。
何か言いたいことが有るようだ。
そう思ったカイムは、続きの言葉を促した。
「何だ?」
「カゲトラさんの装備はそのままで良いのでしょうか?」
カゲトラは防具らしい防具を身につけていない。
そんな彼女を連れてダンジョン深くへと潜ることが、ルイーズには気がかりなようだった。
それに対して黒猫は、昂然たる様子でこう答えた。
「みゃおっふ」
しかし自信満々に言われても、猫の言葉などルイーズにはわからない。
それでカイムに通訳を求めてきた。
「カゲトラさんはなんと?」
「『だいじょうぶだ。問題無い』とのたまっておられるが……」
とはいえ、カゲトラには自信が有っても、カイムの心情はルイーズ寄りだった。
(ダンジョンに何回か潜って
前より強くなってるとは思うけど、
こいつの元々の防御力って、
ストロングさんの魔弾銃で普通に怪我するレベルなんだよな)
「ちょっと心配かもな。まあ、買っとくよ。防具」
「みゃ……」
信用されていないことを心外に思ったのか。
カゲトラは拗ねたように目を細めた。
「念のためだから」
「それでしたら、明日……」
ルイーズが何かを言いかけたそのとき。
「カイム」
ジュリエットが口を挟んできた。
「せっかくだから、カゲトラさんの防具選び、
私と一緒に行こうよ。
またキミとデートしたいって思ってたしさ」
ジュリエットがそう言うと、ロジャーがカイムを睨んだ。
「ぐ……ずるいぞストレンジ……!」
「何が?」
「ぼくだってヴィルフさんとデートしたいのに
おまえばっかり良い思いして……!
一回だけなら決闘に勝ったからで大目に見たけど、
それ以上はルール違反だぞ……!」
「ルール……?」
「決闘ナシでもデートできるなら
ぼくともデートしてくれないと不公平だよ……!」
(そういう問題なのか?)
「なるほど。言われてみればそうだね」
ジュリエットがそう言った。
(言われてみればそうなのか?)
「それじゃあブロスナンくん。
次の先休日、私とデートしようか」
「えっ……マジでよろしいのですか……?」
「うん。カイム以外の男の子とも
一度デートしてみたいと思ってたからね」
「イヤアアアフウゥゥゥ!
見たかストレンジ! これがぼくの力、ぼく力だ!」
「なにりょく?
ブロスナンとデートするってことは、
防具選びは俺がやっとくってことで良いのか?」
「ううん。カイムとは後休日にデートしたいと思うんだけど」
「二日連続でデートか」
「うん。両手に花だね。モテる女は困るね」
「そのうち刺されても知らんぞ」
「あれ? 嫉妬してくれてるのかな?」
「かもな」
実際は、嫉妬心などは微塵も無かった。
だがこういうとき、男は女を立てるものだ。
テキストにもそう書いてある。
なのでカイムは、嫉妬心が無いということを明言はしなかった。
「ふふっ。忠告ありがとう」
ジュリエットは嬉しそうに笑った。
……。
そして先休日の朝。
朝食の時間になったので、カイムはカゲトラと一緒に食堂へと向かった。
テーブル席に座ると、ロジャーとドスがカイムに近付いてきた。
ロジャーはにやにやと笑みを浮かべてカイムの隣に座った。
ドスは無表情でその隣に腰かけた。
「ふふふ。今日はヴィルフさんとデートだ。見たか」
ロジャーはカイムにそう威張ってきたが、なぜか小声だった。
それを妙に思ったカイムがこう尋ねた。
「おめでとう。それで、どうして小声なんだ?」
「こんなことが周りにバレたら殺されちゃうかもしれないだろ……!?」
「大げさな」
(猫車であんだけ騒いでたんだから、
クラスメイトたちにはとっくに知られてると思うがな)
「ま、そういうわけだから。おまえは寮で寂しく過ごすんだな。はははははっ」