その42の2
「告白……?」
「あの、告白で無いのだとしたら、
カイムさんは愛してもいない女子に対して
自分の好みのファッションを
強引に押し付けようとしている。
そういうことになると思うのですが……?」
(ふぅん。そういうことになるのか)
「たとえばの話だけど……
俺がもし愛の告白をしていないのだとしても、
ルイーズはメガネをかけてくれるか?」
「嫌ですけど」
「そうか……。
もうこれは……覚悟を決めるしか無いな……」
「カイムさん……?」
カイムは地面を蹴った。
力強い跳躍。
そして。
「お願いします!
どうかお願いします!
メガネをかけてください!
死ぬまでかけ続けてください!」
カイムは東方から伝わる伝説の奥義、ジャンピングドゲザを決めた。
国家最高の人材とは思えない、なさけのない姿だった。
「どんだけメガネ好きなんですか!?」
……。
5分後。
「……わかりました。
カイムさんのメガネへの熱意は、
良く伝わりました。
釈然としないものはありますが、
ドゲザまでさせてしまっては、
このまま無視するということもできません。
不肖ルイーズ=レオハルト、
メガネをかけさせていただきます」
カイムのドゲザがルイーズの心を射止めたようだ。
ルイーズはしぶしぶとメガネを装着した。
そしてどこかおそるおそるといった様子で、カイムの反応をうかがった。
「……いかがでしょうか?」
「最高に可愛いぞ」
カイムはそう言うと、ビッと親指を立てた。
「ありがとうございます。
わたし個人がメガネに負けているような気がするのは
複雑な気分ですけど」
「それは違うぞルイーズ。
メガネ単体じゃダメなんだ。
あくまでもメガネは
ルイーズという極上の素材を引き立てるための道具なんだ」
本心か方便か。
カイムはメガネ論をルイーズへと説いた。
「……極上ですか。どうも。
ところで次の休日に、メガネ屋さんに行きませんか?」
「ナンデ?」
「このメガネはあまり可愛く無いので、
もっと私に似合うメガネを選んでいただけないかと」
「それは違うよ」
「はい?」
「そのメガネがルイーズに一番似合ってるんだ。
ベストメガネなんだ。
メイガッネッオブジイヤーなんだ。
究極にして至高のメガネ。メガネの王なんだ」
「そうでしょうか?
色は可愛くないですし、
形も無骨に思えます。
もっとすらりとしたメガネの方が可愛らしいと思います」
「フッ……。なあ、ルイーズ」
「はい?」
「まだ俺のドゲザを見足りなかったみてぇだなぁ!?」
「わかりましたから!?」
地面に膝をつこうとするカイムを、ルイーズは必死で抑えた。
誠実な説得の末、ルイーズに今のメガネをかけ続けてもらうことになった。
カイムは人としての何かを失いつつ、エージェントとして最良の勝利を得た。
たぶん。
(しばらくはこれで様子見をしてみるか。
問題の原因が邪眼だったのなら、
下手に走り回るよりも、このメガネに任せた方が
上手く行くかもしれないからな)
話に区切りがついたので、カイムは寮に戻ることにした。
ルイーズと一緒に、公園の猫車のりばへと歩いた。
ルイーズをのりばに残し、カイムは猫車に乗り込んだ。
すると猫車の外から、ルイーズが声をかけてきた。
「……カイムさん」
「ん?」
「カイムさんは他の女の子にも
あのようなおかしな頼み事をしていらっしゃるのですか?」
「いや。ルイーズがはじめてだけど」
「それはどうしてですか?」
「それは……ルイーズに一番……あのメガネが似合うと思ったから……」
「私の容姿はカイムさんには
それなりに魅力的に映っているのでしょうか」
「ああ。もちろんだ。
ルイーズは最高の女の子-ベストガール-だよ」
「そうですか。だというのに……。
カイムさんは私に、
愛の告白などはしてくださらないのですね」