その40の2
「はい。私はルイーズ=レオハルト。
冒険科の生徒で、2年A組です。
よろしくお願いします」
「っ……よろしくね……レオハルトさん……」
「カイム。とりあえずはコレを」
ロビーはビジネスバッグから小包を取り出し、それをカイムに手渡した。
「今わたしたちが用意できる中で
最高級の物だ。
……しかし、こんな小間使いのために
私を呼んだわけでは無いのだろう?」
「そうですね。
伯父さんには、ルイーズの『鑑定』をしていただきたいのです」
鑑定とはスキルの一種だ。
他人の天職やスキルなどを見抜くことができる。
ロビー=ミケルセンは、鑑定の名手だ。
魔導器などで偽装されても、隠された相手のスキルを見破ることができる。
戦闘力ではカイムたちに劣るが、チームエピックに欠かせない人材だと言えた。
「私が? レオハルトさんの?」
「はい」
「皇女ともなれば、
宮廷お抱えの鑑定士から
鑑定を受けているんじゃないのか?」
「お願いします。
これは伯父さんにしか頼めないことなんです」
「……何を企んでるの?」
ウルスラがカイムを怪しむ様子を見せた。
カイムは小声で答えた。
「マジメに任務をこなしてるだけさ」
「わかった。やってみよう。
わざわざエスターラまでやって来て
手ぶらで帰るわけにもいかんからな」
ロビーは鞄からペン、紙、バインダーを取り出した。
そして手を地面に向けた。
するとロビーの手のひらの先に、魔法陣が出現した。
「レオハルトさん。その魔法陣の中に立ってください」
ロビーがルイーズにそう言った。
実際はロビーは、ルイーズの真下に魔法陣を出現させることもできた。
だが、無断で皇女殿下を魔法陣に入れるなど、不敬でしかない。
それで離れた位置に陣を出現させたのだった。
「ええと……」
ルイーズは迷うような表情でカイムを見た。
カイムは頷いた。
それを見たルイーズは、魔法陣の中へと歩いて行った。
「筆記開始……」
ルイーズが魔法陣の中に立つと、ロビーは眼を閉じた。
彼の全身が、強い魔力に包まれた。
魔法陣が強く輝いた。
ロビーの手が動き出した。
ペンを持った手が、紙に何かを記し始めた。
やがて手が止まった。
魔法陣が消滅した。
ロビーは眼を開いた。
そして手元の紙を見てこう言った。
「ん……。レオハルトさんは……。
どうやらスキルを持っていないようだな」
この世には、スキルを持たない人間も居る。
ロビーはルイーズがスキルを持っていないと判断したようだ。
「そうですか。ところで伯父さん」
「ん?」
「ルイーズがスキル無しということは、
伯父さんのスキルは発動しなかったということですね?」
「ん……? ああ。そうだな。
私のスキルはスキル無し相手には発動しない。
おまえも知っているはずだが、
どうしてそんな事を聞く?」
「いえ。ありがとうございました。
その紙をいただけますか?」
(白紙の紙をどうするつもりだ……?)
カイムの要求を不可解に思いながら、ロビーは紙を差し出した。
カイムは紙を受け取ると、ロビーに礼を言った。
「ありがとうございます」
妙な状況に不気味さを感じたらしく、ロビーはルイーズを見た。
彼女の顔を見る気にはなれなかったようで、足元の方を観察した。
(レオハルトさん……。
こうして傍に立っているだけで
底知れない迫力を感じる。
まさか彼女が裏で糸を引いているのか……?)