その40の1「エピックフォーとエピックナイン」
(チームエピックが動くほどの事件が起きたってのか?
やっぱり占い師の予言は外れねえな)
予言された大事件の火種を、カイムがついに嗅ぎつけた。
ジムがそう誤解したのだと気付き、カイムはすぐに訂正した。
(予言とは別件かもしれません。
ですが、エスターラとクリューズの友好のために
解決すべき問題だと思われます)
(だから、いったい何なんだよ?
その問題だってのは)
(俺は今からあることを言います。
意味の有る言葉です。
それをストロングさんが
理解できないと思ったら、
それが異常事態の証です。
ミケルセンさんを送ってください。
行きますよ。
……ルイーズ=レオハルト皇女は、邪眼持ちです)
(…………エピックフォーを送る)
(ありがとうございます)
(だがどうやっても明日まではかかるぞ)
(だいじょうぶです。
異常事態ではありますが、
緊急性のある問題でも無いと思いますから)
(ヤバいのかヤバくないのかどっちなんだよ?)
(まあ、ヤバいですけどね)
……。
カイムがジムに救援要請を送った翌日。
昼休みの昼食時。
(エピックセブン。現場に到着した)
カイムが装着していた念話の指輪から、男の念が届いた。
聞きなれた声だった。
相手がエピックフォーなのだということが、カイムにはすぐにわかった。
(ありがとうございます。
それでは放課後に合流しましょう)
(今からではダメなのか?
暇では無いのだがな。こちらも)
(学友と食事中でして。
俺たちと仲良く食事をしても
チームエピックとして支障が無いというのでしたら
どうぞこちらにいらしてください)
(……現場近辺で待機する。
そっちの都合が整ったら連絡してくれ)
……。
放課後になると、カイムはルイーズに声をかけた。
「ルイーズ。ちょっと付き合ってくれるか?」
「はい」
(今からクラスメイト、
ルイーズ=レオハルト皇女と一緒に公園に向かいます。
公園の場所はわかりますか?)
(だいじょうぶだ。問題ない)
(設定は、親戚のおじさんということでお願いできますか?)
(わかった)
カイムはルイーズを連れて、公園のガゼボへと向かった。
するとそこに、二つの人影が見えた。
カイムは人影に近付き、その正体を確認した。
片方は気難しそうな容貌の、青いベリーショートヘアの男性。
カイムの先輩、エピックフォー、ロビー=ミケルセンだった。
ロビーの右手には、オフィスワーカーが使うような黒い手提げ鞄が見えた。
彼の後ろには、もうひとり誰かが立っているようだ。
そのはっきりとした姿は、ロビーの体に隠れてわからなかった。
ロビーと一緒に居るということは、十中八九は味方だろう。
カイムはそう判断し、ロビーに声をかけることにした。
「おじさん」
「久しぶりだな。カイム」
ロビーがカイムに言葉を返した。
そのとき。
「おにいちゃん!」
ロビーの後ろから、14歳くらいの少女が駆け出てきた。
彼女の髪色は、ルイーズのそれと良く似ていた。
身につけている衣服は、年齢相応のカジュアルファッションだった。
彼女の顔にもカイムは見覚えが有った。
だが、彼女がロビーと一緒に居ることを、カイムは意外に感じた。
「ウルスラ……?」
少女は親しげにカイムに抱きついてきた。
そしてカイムの耳に唇を寄せると、小声でこう囁いてきた。
「どうして……って顔してるね? 教官。
今の私はエピックナイン。
エピックフォーの護衛役だよ。
よろしくね。先輩」
「護衛……か」
「うん。そういうこと」
(ミケルセンさんはチームエピックの一員だ。
当然に戦闘能力は高い。
そんな彼に、
戦闘特化のエージェントを同伴させた。
長官は、二つ星の俺の呼び出しが罠かもしれないってことも
計算に入れてるわけか)
「新米だからって甘く見てると
ブスリと行っちゃうから、気をつけてよね」
「そうさせてもらおう」
言いたいことを言い終えると、エピックナインはカイムから離れた。
「カイムさん。この方々は?」
事情がわからないルイーズが疑問を口にした。
「……はじめまして。
私はカイムの伯父のロビー=ストレンジだ」
固い口調で、ロビーが偽のファミリーネームを名乗った。
次にウルスラが、軽い調子で自己紹介をしようとした。
「いとこのウルスラ=ストレンジだよ。よろし……く……ヒッ……!?」
ルイーズと目が合った瞬間、ウルスラは身を竦ませた。
そしてカイムを壁にするように、彼の影に隠れた。
「悪い。ウルスラは人見知りするんだ」
「そうですか」
「な……何なのアレ……? 悪魔……?
それともレオハルトさん……?」
ウルスラはヒソヒソ声でカイムにそう尋ねてきた。
「レオハルトさんだよ。
ブスリと行くんじゃ無かったのか?
ルイーズ。自己紹介を頼む」