その39の2
何やら妙なことになってしまった。
今の事態をどうにかするには、別の切り口が必要なようだ。
そう感じたカイムは、いちど引き下がることに決めた。
「猫車のりばまでお送りしましょう」
ルイーズがそう言った。
「ありがとう」
ルイーズに付き添われ、カイムは猫車のりばに移動した。
そしてのりばにルイーズを残し、猫車に乗り込んだ。
「隣、良いかな?」
着席したカイムに、ミラベルが声をかけてきた。
「ああ。良いよ」
ミラベルはカイムの隣に座った。
「…………」
自分から話題を振りたい気分ではない。
カイムがそう思っていると、ミラベルが口を開いた。
「……ありがとう」
「何が?」
「レオハルトさんのことを、怖がらないでいてくれて」
「礼を言うようなことか?」
「私たちは……ダメだったから。
私さいしょは、
あの子のことを凄く邪悪な存在だと思ってた。
そんなあの子と一緒のパーティになるの、
嫌で嫌で仕方が無かった。
けど、ダンジョンで何度も助けてもらって、
それで気付いたの。
レオハルトさんは邪悪な存在なんかじゃない。
人類に味方する存在なんだって。
……邪悪だなんて決め付けてたの、
悪い事をしたなって思った。
けど……。
レオハルトさんは悪くないって分かってるのに、
私たちが彼女を怖いって思う感情は、
消えてくれなかった。
私たちは、真の仲間にはなれなかった。
それが悔しいし、なさけないって思った。
……今日、キミを見てびっくりしたよ。
レオハルトさんのことをまったく怖がらずに、
普通の女の子みたいに接してるんだから。
そんなあなたに、レオハルトさんも気を許してた。
……レオハルトさんと、ずっと仲良くしてあげてほしい。
できるなら、学校を卒業してからもずっと」
「……悪い。
俺はルイーズのそばには、ずっとは居られないと思う」
自分はスパイだ。
この学校に居るのは任務のためだ。
任務が終われば、学校を去ることになるだろう。
そう思っているカイムには、ミラベルの頼みを聞くことはできなかった。
「そっか……。勝手なお願いをしてごめんね」
「ただ……。
俺はルイーズのことを、このままにするつもりは無い」
「え……?」
「卒業までに、ルイーズは友だちをつくる。
俺以外の友だちをだ。いっぱいだ」
「そんなこと……」
「そうしてみせる」
「……うん」
猫車が、寮のそばにまでたどり着いた。
寮に入ったカイムは、談話室へ直行した。
そして知り合いの姿を探した。
カイムはアルベルトを発見すると、彼に近付いていった。
「先輩……」
アルベルトとその友人たちが居るテーブルのそばで、カイムは口を開いた。
「ストレンジ。どうした? 難しい顔をしているが……」
「先輩。ルイーズは、邪眼持ちです」
突然とも思える言葉を、カイムははっきりと口にした。
「すまん。もう一度いってもらえるか?」
「……いえ。ちょっと疲れてるみたいです。
部屋で休ませてもらいますね」
カイムは固い表情のまま、談話室から出て行った。
「だいじょうぶか? あいつ」
アルベルトの隣で、マックスが心配そうな顔を見せた。
談話室を出たカイムは階段に向かい、2階の自室へと戻った。
「みゃあ」
いつもと変わらぬのんきな顔で、黒猫がカイムを出迎えた。
カイムは救われたような気持ちになり、カゲトラに微笑みかけた。
「ああ。ただいま」
しばらくカゲトラを抱きしめた後、カイムは椅子に座った。
そして制服のポケットから、遠話箱を取り出した。
ジムの遠話番号を押すと、カイムは遠話箱に耳を当てた。
遠話が繋がると、カイムは口を開いた。
「パパ。カイムです」
「こんな時間にどうした?」
「ちょっと相談したいことがありまして。構いませんか?」
「……わかった」
カイムは念話の指輪を装着した。
すぐにジムの声がカイムの意識下に響いた。
(カイム。聞こえるか?)
(はい)
(何か起きたのか?)
(起きたというか……最初から起きていたというか……)
(つまり何だよ?)
(エピックフォーを。ミケルセンさんをこっちに寄越してください)