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その39の1「メガネと異常事態」



 廊下の床に、ヨンゾウが落としたメガネが見えた。



 カイムはそれを拾い上げると、ルイーズに声をかけた。



「ルイーズ、ちょっとこっちに」



「はい」



「どうするの?」



 ジュリエットの疑問には答えずに、カイムは魔導義肢研究部の部室に入った。



「そこの子、ちょっと良いか?」



 カイムはいちばん近くの部員に声をかけた。



「うん? 天才のボクに何か用かな?」



 長身の桃髪の少女が、カイムの方に振り返った。



「ああ。天才のきみに頼みたいことが有るんだ。


 このメガネをかけて、


 ルイーズの目を見て欲しいんだけど」



「え……? レオハルトさんの……?」



 ルイーズの名を聞いた瞬間、桃髪の少女は尻込みした様子を見せた。



「後でお礼はするから。頼むよ」



「仕方ないね。


 天才のボクにしか出来ないというのなら


 協力してあげようじゃないか」



 人の頼みを断れないタイプなのか。



 少女はやる気を見せた。



「ありがとう」



 カイムはヨンゾウのメガネを少女に手渡した。



 彼女はメガネを装着するとルイーズを見た。



「どうだ?」



「迫力が有るね。さすがはレオハルトさんだ。


 ……もう良いかな?」



「次はメガネを外してみてくれ」



「うん。わかっ……ヒッ!?」



 裸眼でルイーズの瞳を見た瞬間、少女はびくりと震えた。



「も……もう行って良いかな……?」



 少女はルイーズから眼を逸らしながら、震える手でメガネを渡してきた。



「ああ。なんか、悪かったな」



 カイムは謝りながらメガネを受け取った。



「い……いや……お役に立てたのなら幸いだよ……それじゃあ……」



 桃髪の少女は涙声でそう言うと、ふらふらと遠ざかっていった。



「お姉ちゃん。だいじょうぶ?」



 桃髪の少女に、同じ髪色の少女が声をかけた。



「うん……だいじょうぶだよ……。


 ただちょっと……ぎゅっとしてもらっても良いかな……?」



「はいはい」



 震える少女は妹らしき人物に抱きしめられた。



「姉妹愛……美しいな。


 って、それどころじゃない。ルイーズ」



「はい」



「今のでわかったよな?


 ルイーズが怖がられてたのは、


 コルシカ帝のひ孫だからってだけじゃない。


 ルイーズは、邪眼持ちだったんだ……!」



「……はい?」



「はい?って何だよ?


 まさか……自分が邪眼持ちだって、


 最初から知ってたのか……?」



「すいません。


 よく聞こえませんでした。


 もう少しハッキリと喋っていただけませんか?」



「えっ? そんなに聞こえにくかったか?


 悪い……。


 もう一度、はっきり言うぞ。


 ルイーズは、邪眼持ちなんだ」



 カイムは先ほどよりも明確な発音を意識して、大きな声でそう言った。



 だが……。



「……はい?」



 ルイーズは先ほどと同じように、疑問の声を向けてきた。



「ルイーズ……?」



 何かがおかしい。



 そう感じたカイムが、困惑の表情を浮かべた。



「そのように意味のわからないことを仰るなんて、


 少しお疲れなのではないですか?


 ……すいません。


 私のせいで働かせすぎてしまっていますよね……」



 ルイーズは申し訳なさそうにそう言った。



「なに言ってんだ……?」



 自分は疲れてなどいない。



 トップエージェントは、この程度のことで疲労を感じたりはしない。



 しかしどうして……?



 どうしてルイーズには自分の言葉が通じないのか。



 カイムが答えを出す前に、ヨンゾウが帰ってきた。



「にん……メガネを忘れてしまったでござる……」



 部室に入って来たヨンゾウは、ルイーズの存在に気付いた。



「っ……まだいらっしゃったのでござるな……」



 ヨンゾウはおどおどした様子でそう言った。



「どうぞ」



 カイムはヨンゾウにメガネを渡した。



「かたじけない」



「あの……エンマ先輩」



「何でござるか?」



「ルイーズは邪眼持ちです」



「…………? ちょっと聞き取れなかったのでござる」



「ルイーズは、邪眼持ちです」



 カイムははっきりとそう言った。



 そのつもりだった。



 なのに。



「もう少しハッキリ言っていただけぬでござるか?」



 どうして自分の言葉は、こうも通じなくなってしまったのか……?



 焦ったカイムはミラベルにも声をかけた。



「マニャール……! ルイーズは邪眼持ちなんだ……!」



「あのさ……。


 ちょっと休んだ方が良いんじゃないかな?」



 ミラベルはカイムに心配そうな視線を返してきた。



 カイムの言葉はミラベルにも通じてはいないようだ。



「っ……。そうだな。


 疲れてるのかもしれない。


 今日はもう……寮に帰るよ……」




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