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76/104

その38の2


「あいつに何をしたんですか?


 火がどうとか言ってましたけど」



 カイムは先ほどのティボーの様子を不可解に思っていた。



 それでヨンゾウにそう尋ねた。



 するとヨンゾウは、真剣な顔を作ってこう言った。



「ストレンジどの。


 拙者が使ったのは、一族の秘術。


 うかつに外に漏らしたならば、


 極刑火あぶりは免れぬ。


 それほどの技なのでござる」



「そうなんですか。


 すいません。そんな技を使わせてしまって」



「まあ、それは昔の話でござるがな」



「えっ?」



「いくさばに生きた一族も、


 時代の流れに従ってとっくに離散。


 各々が気ままに生きているのが現状でござる。


 そんな状況では、秘伝も何も無いでござろうなあ。


 ふふふっ」



「はぁ。からかわないでくださいよ。


 それで、結局は何だったんですか?」



「拙者が用いたのは魔炎眼。


 瞳術の一種でござる」



「瞳術……?」



「こちらでは邪眼-イビルアイ-と呼ぶのが一般的でござるな。


 瞳が持つ力によって


 相手の精神などに影響を与える術にござる。


 拙者の特異体質である魔炎眼は、


 術をかけた相手に


 幻の炎を見せることができるのでござる。


 つまり、幻術でござるな」



「邪眼……」



 邪眼は希少なユニークスキルだ。



 その多くは戦闘において、絶大な力を発揮すると言われている。



 そんな強大な力を、このサメグルイの先輩が持っているとは。



 カイムは軽い驚きを見せた。



「にん。


 拙者は瞳術のコントロールが未熟なので、


 感情が昂ぶると


 魔炎眼を暴走させてしまうのでござるがな。


 その対策として、


 こうして邪眼封じのメガネを装着しているのでござる」



「邪眼封じ?」



「にん。このメガネは実は魔導器になっていて、


 邪眼の効果を遮断してくれるのでござる」



「あ……」



 カイムはある事実に気付いた。



 この学校に居る者たちは、そのほとんどがルイーズに畏怖の感情を抱いている。



 大抵の者は、彼女と視線を合わせようともしない。



 だがその例外となる者も存在した。



 一人は目の前のヨンゾウ。



 そして。



『このレンズはね、そういう邪眼の力を弱めてくれるんだ』



『昔ににね、邪眼持ちの悪いヤツに


 誘拐されたことが有るんだ。


 それからは、念のために


 こうやって自衛をしているんだよ。


 ターシャのメガネも同じ性質のレンズを使ってるんだ』



 彼女はルイーズを恐れず、まっすぐに視線を向けていたのではないか。



「……………………あの、先輩。


 一つお願いしても構いませんか?」



「何でござるか?」



「そのメガネを外した状態で、


 ルイーズの目を見てもらえませんか?」



 いきなりそんなことを頼んだカイムに、ルイーズが疑問の瞳を向けた。



「カイムさん?」



「…………? 妙なお願いでござるな?」



 ヨンゾウもカイムの頼みに対し、釈然としない気持ちを抱いたようだ。



「試したいことが有るんです。お願いします」



 説明するよりも試した方が早い。



 そう考えたカイムは、ただ頭を下げた。



「了解でござる。しからば……」



 ヨンゾウはメガネを外し、ルイーズの前に立った。



 すると。



「ヒッ!?」



 眼が合った瞬間、ヨンゾウの体がぶるりと震えた。



 次の瞬間には、彼は姿を消していた。



 肉食獣を前にした草食動物のように。



 なりふり構わずルイーズの前から逃げ出したのだった。



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