その37の2
「エンマ先輩。先輩もここに用事ですか?」
「サメの修繕が完了する予定日なので、様子を見に来たでござるよ」
「そういえば、サメはここの作品って話でしたね」
「にんにん」
二人が話していると、ヨンゾウの後ろから女子の声が聞こえてきた。
「レオハルトさん?」
「ミラベルちゃん。お久しぶりです」
ルイーズが女子に挨拶をした。
……ミラベル。
どうやら彼女が目的の人物、ミラベル=マニャールのようだ。
ミラベルは、地面に視線を向けながら微笑を浮かべた。
「うん。こうして話すのは久しぶりだね。
それでレオハルトさん。今日はどうしたの?」
「カイムさん」
ルイーズがカイムを呼んだ。
噂の調査を仕切っているのはカイムだ。
それで話を任せることにしたらしい。
カイムはミラベルに少し近付くと口を開いた。
「マニャール。
きみには学校で流れてるルイーズの噂に関して
証言をしてもらいたい」
「良いよ」
ミラベルはそう答えた後、ルイーズのつまさきに視線を向けた。
「けど、どうしたの?
今までは噂のことなんか
気にしてないみたいに振舞ってたのに」
「彼の、カイムさんのご厚意です」
「そうなんだ……。良かったね。レオハルトさん」
「え? はい」
「それで、何の噂に関して話をすれば良いの?」
「レリア=セリエール。
ルイーズの元パーティメンバーについてだ。
彼女が学校から居なくなったことに関して、
ルイーズが原因なんじゃないかっていう
悪い噂が流れてる。
けどルイーズの話だと、
彼女は外国で幸せに暮らしてるらしい。
その裏付けが欲しくて来た」
「ああ、その変な噂、
私も聞いたことあるよ。
本当かって聞かれたら、
私は違うって言ってるんだけど、
どうしてか噂は無くならないんだよね……。
それで……うん。
レリアちゃんが外国で暮らしてるっていうのは
本当だよ」
それを聞くと、ティボーが声を荒らげた。
「間違いないのか!?
レリアはどこに居るんだ……!?」
「それは話せないよ」
ティボーの熱のこもった問いを、ミラベルはきっぱりと拒絶した。
「どうしてだよ……!?」
「彼女自身がそれを望んでるから」
「何か事情が有るのか?」
カイムが尋ねると、ミラベルは頷いた。
「うん。それはレリアちゃんが退学した理由の一つでもあるんだけどね」
「理由の一つって、いくつも理由が有るのか?」
「いくつもってほどでも無いよ。
理由は二つ。
一つめの理由は、
私が転科した理由と同じかな。
自分の冒険者としての才能に、
自信が持てなくなったから。
そして、もう一つが、
ストーカーの存在」
「ストーカー?」
「うん。
あの頃は彼女の周りで
いろいろと妙なことが起きてたの。
匿名の手紙が毎日とどいたり、
タオルが盗まれたり……」
「たいへんだな。
犯人は捕まえられなかったのか?」
「その気になれば捕まえられたとは思う。
けど、レリアちゃんはそれを望まなかった。
彼女にとってはあの事件が、
諦めをつける良い機会になったのかもしれない」
「そうか。
事情はわかったけどさ、
俺たちはレリア=セリエールの無事を
きちんと記事にして公表したいんだ。
ストーカーが怖くて居場所は明かせませんって記事だと
決着に影が残るような気がするんだよな……」
「ええと。
それなら……写真を使ったらどうかな?
元気な彼女の姿を見たら、
学校のみんなも納得するんじゃないかな?」
「写真? それはまずいんじゃねえの?
景色とかで居場所がバレるだろ」
「うん。
普段の写真だとまずいと思うけど。
良い写真が有るんだ」
「へえ。どんな写真なんだ?」