その35の2
「うむ。何でござるかな?」
「文化祭の新聞記事に使った
ルイーズの記録映像を
見せて欲しいんですが」
「お安い御用でござるよ」
カイムたちはヨンゾウと共に、映研部の部室へと移動した。
映研部の部室は、新聞部のそれよりも遥かに雑然としていた。
映画に用いるのであろう大道具小道具などが、そこらじゅうに散乱していた。
だが、そこを歩くヨンゾウの足取りに迷いは無かった。
一直線に戸棚まで歩くと、一個の記録石を取り出してみせた。
ヨンゾウはそのイシを、映写機にセットした。
すると去年の文化祭の様子が、部室の白い壁面に映し出された。
「ええと……この辺りでござるかな?」
ヨンゾウは映写機を操作すると、ルイーズが登場する場面を映し出した。
「これで良いでござるか?」
そこには確かに、ピンク色の財布を持ったルイーズが映し出されていた。
「はい。ありがとうございます。
この映像を見せたい人が居るので、
明日この部室を使わせてもらっても構いませんか?」
「うむ。構わんでござるよ」
……。
翌朝。
カイムたちはアンドレを、映研部の部室に呼び出した。
そして文化祭の映像を彼に見せたのだった。
「そういうわけで、
これがあの財布がルイーズの物だったって証拠だ。
納得してくれたか?」
「うん……。俺が誤解してたみたいだ。ごめん……」
「俺じゃなくてルイーズに言ってくれ」
「っ……はい……。
レオハルトさん……すいませんでした……」
「いえ。わかってくださったのならけっこうです」
萎縮しきった様子のアンドレに、カイムはこう尋ねた。
「……なんでまだビクビクしてるんだよ?
ルイーズがカツアゲするような奴じゃないってのは
わかってくれたんだろ?」
「だってほら……レオハルトさんって迫力あるだろ……?」
(迫力……?)
カイムはルイーズを見た。
可憐な少女の姿を見ても、カイムは一片の迫力すら感じることはできなかった。
「…………?」
カイムは疑問符を浮かべながらこう考えた。
(可愛い生き物にしか見えんが……。
皇女さまだから、それで気後れしたりするんかな?)
まあ、どうでも良いか。
そう思ったカイムは、アンドレにこう確認を取った。
「このことは、新聞記事にさせてもらう。良いな?」
「……ああ。仕方ないよな」
「悪いな。きみの名前は出さないから」
部室での用事を終えたカイムは、廊下へと出た。
そこで一緒に部室を出たルイーズに声をかけた。
「やっと1件、片付いたな」
「そうですね。次はどうされますか?」
「ええと……」
カイムはポケットからメモ帳を取り出し、次の予定を確認した。
……。
某日、学校の会議室。
「以上の証拠が示すように、
レオハルトさん百合乱暴事件その1の
真犯人はあなただ! ジスレーヌ先輩!」
ルイーズが女生徒に、ふしだらな暴行を働こうとしたと言われる事件。
カイムはその真犯人を、白日の下に晒していた。
「っ……そのとおりよ。
私はニノンのことが好きだった。
けどニノンには、既に好きな相手が居たの。
しかもその相手は、事もあろうに男だった。
だから私は……強引にニノンを自分のものにすることにしたのよ。
彼女を愛しているから……!」
「キモい」
被害者のニノンが、蔑んだような目を真犯人へと向けた。
「ごほあっ!?」
真犯人のジスレーヌは吐血した。
彼女はカイムがあらかじめ呼んでおいた警察に、担架で連行されていった。
「悲しい事件だったな……」
カイムは哀愁を漂わせてそう言った。
「そうですか?」
ルイーズはただただ呆れたような表情を浮かべていた。
……。
「つまり、レオハルトさんねこ珍走団事件は
猫牧場で騒ぎを起こした冒険者たちが原因だったんだよ!」
「そうだったのか……」
……。
「話は聞かせてもらった。
ルイーズは犯人じゃない」
「「「な……なんだってーっ!?」」」
カイムは次々にルイーズの悪評を晴らしていった。