表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

68/104

その34の2



「大々的にって……それはちょっとどうかな……?


 新聞を刷るのってけっこうたいへんなんだよ?」



 カイムの急な要望に、ユベルティーヌは難色を示した。



 だが。



「何を言ってやがる」



「え……」



 カイムは荒々しい手つきでユベルティーヌの胸倉をつかんだ。



 そして彼女の顔を、自分の顔にぐいと引き寄せた。



「っ……!」



「悪い噂がここまで広まってることに


 無関係だって言うつもりか?


 おもしろ半分でルイーズを記事にしやがって。


 ……償え。


 テメェらにはその義務が有る。


 そうだよな?」



「あっ……はい……」



 いくら悠然とした態度を取っていても、ユベルティーヌはただの学生だ。



 カイムがほんの少し気迫を向けただけで、もう刃向かうことはできなくなってしまった。



「良し」



 軽く交渉をしただけだ。



 そんなふうに。



 何事も無かったと考えているかのように。



 カイムはユベルティーヌをはなした。



 ユベルティーヌの体が自由になった。



 だが、心までは自由では無かった。



 彼女はすとんと尻餅をついた。



 それを気にしていない様子で、カイムはルイーズたちに向き直った。



「良し。それじゃあ……」



 カイムが何かを言おうとしたそのとき。



「カイムさん」



「ん?」



「それはやりすぎだと思いますよ」



 ルイーズはカイムに非難の視線を向けてきた。



「えっ」



「カイムってさ、オンナ殴ってそうだね……」



 ジュリエットでさえも、カイムの行動に難色を示していた。



「そんなこと……」



 無いはずだ。



 カイムは申し開きを考えた。



 だが。



(いや……。


 格闘技の訓練だと普通に殴ってるな。


 それに任務の時に何回か。


 俺、オンナ殴ってるわ)



「その……カタギの女は殴ってない」



「娼婦を殴ってるってこと!? 業が深いねキミは!?」



「いや、ちがくて。そうじゃなくて……」



 カイムがあたふたとしていると、ルイーズがこう言った。



「カイムさん。ディアール先輩に謝ってください」



「アッハイ。……ゴメンナサイ」



 カイムは頭を下げた。



「いえ……こちらこそ……」



 なぜか顔が赤いユベルティーヌを残し、カイムたちは新聞部の部室から去った。



 それからナスターシャの案内で映像研究部へと向かった。



「ここが映像研究部の部室ですね」



 ナスターシャがそう言うと、カイムは部室のドアの前に立った。



「居るかな……?」



 カイムはドアをノックしてみたが、返事は無かった。



 それでカイムはドアノブを回してみた。



 ノブは回らなかった。



 鍵がかかっているようだ。



「留守か」



 カイムはそう言って、ルイーズたちに振り返った。



 するとナスターシャがこう言ってきた。



「ピッキングでこじ開けましょうか?」



「やめろ」



「どうする? 映研が戻ってくるまで待つ?」



 ジュリエットがそう言うと、そこへ男子生徒が通りかかった。



「きみたち、映研に用事?」



「そうだけど、ひょっとして映研の人?」



「違うけど。映研の人たちなら、プールの方で見たよ」



「ありがとうございます」



 ルイーズがその男子に礼を言った。



「っ……! レオハルトさん……!?


 ええと……どういたしまして……!」



 ルイーズの存在に気付いた男子は、逃げるように走り去っていった。



「…………」



 立ち尽くすルイーズに、カイムが声をかけた。



「行くか」



「はい」



 カイムたちはプールを目指して歩いた。



 途中でカイムが疑問を口にした。



「しかし……プールなんかで何をしてるんだろうな?」



「水泳シーンの撮影でしょうか?」



「まだ春なのにか? たいへんだな」



「ここのプールは屋内プールだから春でもあったかいよ」



 ジュリエットがそう言った。



 やがて一行は、屋内プールへとたどり着いた。



 建物内には二つのプールが並べて設置されていた。



 その片方のプールサイドで、20人ほどの集まりが何やら騒いでいるのが見えた。



「何やってんだ……?」



 カイムはその集団に近付いていった。



 すると。



「危ない!」



 集団の中の誰かが叫んだ。



 そのとき。



「っ!?」



 水面を裂き、プールから何かが飛び出した。



 その鋭いシルエットは、サメのものに相違なかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ