その34の1「取材と新聞部」
「まずは決闘で負けたときの心境を教えてもらえるかな?」
「あのときは、本当にびっくりしたね。まさか……」
ジュリエットはすらすらと取材に答えていった。
澱みの無いやり取りを経て、ユベルティーヌの取材は終わった。
「ありがとう。有意義な取材だったよ」
「それは良かった。
今日の放課後、そちらの部室を訪問させてもらう。
予定をあけておいてね」
「うん。わかった」
取材が終わったころには、ルイーズも食事を終えていた。
カイムたちは教室に戻り、午後の授業をこなした。
放課後になると、カイムはルイーズに近付いていった。
ジュリエットとナスターシャも、カイムたちの方へとやってきた。
「んじゃ、新聞部に行くか」
「はい」
「部室の場所ってわかるか?」
「部室棟のどこかに有るはずだけど……」
ジュリエットがそう言うと、ナスターシャが口を開いた。
「詳細な位置は私が把握しております。参りましょう」
「さすがターシャ」
ナスターシャを先頭にして、カイムたちは部室棟を歩いた。
とある扉の前で、ナスターシャが立ち止まった。
「こちらが新聞部の部室となります」
カイムは扉を見た。
その扉には、新聞部と書かれたネームプレートがはめられていた。
「居るかな……」
カイムは扉のすぐ前に立ち、ノックをしようとした。
そのとき。
「いらっしゃい」
横側から、女性の声が聞こえた。
カイムは手を止めて、声の方を見た。
そこにユベルティーヌの姿が有った。
「少し待たせてしまったかな?」
「いえ」
部長であるユベルティーヌが、部室の鍵を管理していたらしい。
彼女はポケットから鍵を取り出すと、それで部室の扉を開いた。
一行は、部室内へと入っていった。
雑然とした部室内の中央あたりに、大きな長方形のテーブルが見えた。
テーブルの周囲には、パイプ椅子が置かれていた。
「どうぞ。ちらかってるけど
そのへんに座ってよ」
適当に椅子を選び、カイムたちは腰をかけた。
それから少し遅れて、他の部員たちが部室に姿を現した。
「部長。その人たちは?」
部員の一人がユベルティーヌにそう尋ねた。
「独占取材だ。
こっちのことは気にしないで」
「わかりました」
「さて、それで何の話だったかな?」
ユベルティーヌがカイムたちに用件を尋ねた。
カイムが口を開いた。
「去年の校内新聞、
その文化祭の時のやつを見せてほしい」
「バックナンバーか。それなら……」
ユベルティーヌは壁ぎわの戸棚へと向かった。
そして戸棚のいちばん下の段を漁りはじめた。
「ん。これだね」
やがて彼女は、紙を一枚だけ戸棚から引き抜いた。
そしてそれをテーブルに置いた。
カイムがその紙を見ると、財布を持ったルイーズが大写しになっているのが見えた。
「『大成功の文化祭。あのレオハルトさんもおおはしゃぎだ』」
カイムは新聞の見出しを口に出した。
記事本文には、文化祭とルイーズのギャップについて、つらつらと記されていた。
「…………『あの』って何ですか。『あの』って」
ルイーズが恥ずかしそうにそう言った。
「それよりルイーズ。あの財布が映ってるぜ。けど……」
「モノクロですね?」
写真には色がついていなかった。
財布の形は、今ルイーズが持っている物と同じに見えるが……。
「いちおう財布の形はわかるけど、
できれば色もハッキリした方が良いんだが……」
「カラーの写真なら、
映研に行けば有るかもしれない」
ユベルティーヌがそう言った。
「エイケン?」
聞きなれない言葉が耳に入った。
そう思ったカイムが疑問を口にした。
「映像研究部のことだよ。
その写真は、
映研が撮影した記録映像を
加工したものなんだ。
あそこは機材が揃ってるから、
最新のカラー撮影を
去年からやってるんだよ」
「へぇ……」
「行ってみましょう」
「そうだな」
ルイーズの言葉にカイムが同意した。
「それじゃあ、私の出番はこれまでかな?」
「いや……」
カイムは鋭い眼光を、ユベルティーヌへと向けた。
「俺たちの調査が終わったら、
ルイーズの噂の多くが
根も葉もないデタラメだったと
おまえらの新聞で大々的に公表してもらう」