その33の2
ロジャーが指輪を突き出してきた。
カイムはロジャーの指輪のイシに、自分のイシを合わせた。
二人の周囲に決闘用のドームが形成された。
「良し。勝負だストレンジ」
「ああ。悪いなドス。見学させて」
カイムはロジャーとペアだったドスにそう言った。
「いや。人の動きを見るのも良い勉強になるさ」
「行くぞ!」
ロジャーがカイムに斬りかかった。
悪くは無いが、カイムが居る領域には遠く及ばない。
カイムはロジャーの攻撃を、何回か受け流してみせた。
そして、もう良いかなと思ったころに、斬撃を肩にかすらせた。
決着だ。
指輪がそう判断した結果、決闘用のドームが消滅した。
「おっと、貰っちまったか」
「ふふん。ぼくの勝ちだな」
「ああ。大したもんだ」
(実際、意外と動きは悪くなかったな。
カゲトラにやられた時は
だいぶ油断してやがったな。
まあ、トップエージェントがてこずるほどでも無いが)
「カイム。次は俺とやろう」
「良いぜ」
次はドスと試合をすることになった。
ほどほどに戦って、カイムは負けた。
「やられた」
「ははっ。大したことないなあ? ストレンジ」
横から見ていたロジャーが勝ち誇った様子を見せた。
「悪かったな」
何度か試合を繰り返していると、実技の時間が終わった。
それから座学をこなすと、昼休みになった。
カイムはルイーズたちと食堂へ向かった。
一行は、先日と同じ席に腰をおろした。
すると給仕たちが、なぜか一箇所に集まった。
「「「「じゃんけんぽん!」」」」
謎のじゃんけんが始まった。
決着はすぐについた。
「ぐぉぉ……」
敗北した給仕が、絶望的な声で呻いた。
その給仕はカイムたちのテーブルへと、まっすぐに近付いてきた。
「……ご注文をどうぞ」
(そういうシステムになったのか……)
今日のカイムたちは、すぐに注文を済ませることができた。
やがて料理がやって来て、カイムは食事を始めた。
カイムが料理を食べ終わったころに、見慣れない女子が近付いてきた。
その女子は赤茶色の髪を、黒いカチューシャでまとめていた。
紫色の瞳を煌かせながら、彼女はカイムにこう尋ねてきた。
「相席良いかな?」
カイムは彼女の胸のリボンを見た。
青い。
(3年……。先輩か)
先輩は丁重に扱うべき。
テキストの教えに従い、カイムは彼女を受け入れることにした。
「どうぞ。みんな良いよな?」
「そうですね。……ディアール先輩」
ルイーズが先輩の名前を口にした。
「知り合いか?」
「この方、
ユベルティーヌ=ディアール先輩は、
新聞部の部長さんですよ」
「へぇ」
(この人はルイーズに嫌悪感とか無いんだな)
ルイーズを前にしても悠然としているユベルティーヌを見て、カイムはそう考えた。
だが。
「こんにちはレオハルトさん。今日も怖いね」
良く見ると、ユベルティーヌの手はカタカタと震えていた。
「やせ我慢かよ」
カイムは思わずツッコミを入れた。
そしてこう考えた。
(しかし、新聞部の部長だと?
こっちが会いたいと思ってた時に、
ジャストタイミングすぎないか?
新聞部ともなると、
生徒の同行くらい把握してるってのか?
……まさかな。
個人が全部を把握するには
この学校はでかすぎる。だったら……?)
「俺たちに何か御用ですか?」
単刀直入に、カイムはユベルティーヌの意図を尋ねてみることにした。
「うん。キミとジュリエット王女の
デートについて取材をさせて欲しくてね」
……思っていたよりもくだらない。
そう思ったカイムは、彼女に冷めた声を返した。
「デートって、プライベートの事でしょう。
そんな事を話さないといけないんですか」
「ジュリエット王女は公人だろう?
この国のアイドルだ。
これくらいの取材は許されると思うけどね」
「俺は一般人ですけど」
「取材は受けてはもらえないということかな?」
「私は構わないよ」
王女としてこういう事に慣れているのだろうか。
ジュリエットは平然とそう言って、次にこう付け加えた。
「ただし。
そっちにも私たちに協力して欲しい。
それがこの取材に応じる条件だよ」
その条件は、ジュリエット個人を利するものでは無かった。
カイムは内心で、彼女の友情に感謝した。
「良いよ。できる限りのことはしよう。
それじゃあ質問を初めても良いかな?」
「うん。どうぞ」