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60/104

その30の2



 そうしてカイムが訪れたのは、昨日ジュリエットと訪れた店だった。



「ねこ席をお願いします」



「かしこまりました」



 二人は猫用のスペースが有るテーブルへと向かった。



 座席に腰を落ち着けると、ルイーズは卓上のメニューを手に取った。



「オシャレな店ですね」



 ルイーズはこの店に対して、悪くない印象を抱いているようだ。



 だが……。



「だろ? ジュリエットに教えてもらったんだ」



 カイムは無神経にそう言った。



「ヴィルフさんに……?」



「ああ。昨日ジュリエットとデートに来てさ。


 昼はここで食べたんだ」



「失格」



 ルイーズは微妙に眉根を下げてそう言った。



「えっ?」



「失格です」



「どういうこと?」



「女性をお昼に誘っておいて、


 他の女性の話をするなんて、


 マナー違反ですよ?」



「それは……。けど、俺たちは友だちだろ?


 デートじゃない。だから……」



 他の女の話をしても、べつに無神経ではないのではないか。



 カイムはそう思っていた。



「……そうですね」



 ルイーズもカイムの言葉を肯定した。



 そしてこう続けた。



「誘ったのが私で良かったですね。


 他の女の子が相手だったら、


 一発アウトでしたよ」



「……そんなにダメか?


 デートに誘ったのならダメだってのも分かるけどさ、


 友だちとメシ食いに来ただけだぜ?」



「……はぁ。カイムさん。


 良いですか?


 相手が自分をどう思っているかなど、


 簡単にはわからないものです。


 あなたは相手のことを


 ただの友人だと思っていても、


 相手の女の子はカイムさんに対して


 隠れた恋心を抱いているかもしれません。


 あなたの無神経な行動は、


 そんな相手の気持ちを


 傷つけることになるかもしれないのですよ」



「そういうもんか……」



「そういうもんです。今後は気をつけてくださいね」



「難しいな女子って」



「そうですよ。女の子の扱いには細心の注意を払ってくださいね」



(時限爆弾かな?)



 少しへそを曲げたルイーズだが、料理が届くころには元の調子に戻っていた。



 ここは王女であるジュリエットが薦めた店だ。



 その料理の味は、隣国の皇女であるルイーズの舌をも満足させたようだった。



 サンキュージュリエット。



 おかげでルイーズをガッカリさせずに済んだ。



 食事を終えたカイムは、そんなふうに思いながら店を出た。



「他にどこか寄ってくか?」



「そうですね……。


 カイムさんは映画に興味はおありですか?


 最近、新しい映画が始まったらしいですよ。


 なんでも色がついているとか」



「その映画は……」



(ジュリエットと……って


 他の女の名前は出しちゃダメなんだったな)



「はい?」



「……あんまり評判よくないって聞いたな。その映画」



「そうなのですか?


 少し興味が有ったのですが、残念です」



「けどまあ、ルイーズが見たいなら行ってみるか」



「よろしいのですか?」



「ああ」



 カイムたちは映画館に移動した。



 料金を払い中に入ると、座席は既に埋まっていた。



 席を得られなかった数人の客が、席後方の通路に立っているのが見えた。



「混んでいますね……。


 あらかじめ来ると分かっていれば


 指定席のチケットを買っておいたのですが……」



(やっぱりロイヤルは指定席なのか……)



「みゃあみゃあ」



「カゲトラが、自分を椅子にして良いだってさ」



「いえ。だいじょうぶです」



「そう? まあ、ルイーズも冒険者だもんな。


 立ってるくらいはなんてこと無いか」



「はい。見た目より頑丈ですよ。私は」



「カゲトラ。見えるか?」



 猫は人間よりも視線が低い。



 座席の背でスクリーンが見えにくいのではないか。



 そう思ったカイムが、カゲトラに尋ねた。



「みゃ」



 カゲトラは後ろ足を曲げて腰を低くして、前足をピンと伸ばして座った。



 すると視線がふだんよりも高くなった。



 背を伸ばしたカゲトラの姿は、いつもよりも気品が有るように見えた。



「おまえもロイヤルか」



「みゃあ?」



 各々の鑑賞姿勢が決まると、カイムたちは映画が始まるのを待った。



 やがて映画が終わると、カイムたちは外へ出た。



 映画館前の道路で、ルイーズは活力が失せた目で口を開いた。



「……色がついていましたね」



「だろ? すっげぇ色ついてた」



「……申し訳ありません。


 せっかくお付き合いいただいたのに、


 カイムさんに好ましくない体験をさせてしまったようです」



「おいおい。そんな大げさに考えるなよ。


 ダメ映画ならダメ映画で話のタネにはなるだろ」



「……そうですね。


 カイムさんはあの映画を見てどのように思われましたか?」



(ルイーズの丁寧口調で聞かれると、


 高尚な文学的批評でも


 練り出さなきゃならん気分になるな?)



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