その30の1「ルイーズとお出かけ」
カイムにとってルイーズは、学校で初めての友人だ。
特別な存在だと言える。
彼女のことを調べているのは、それだけが理由なのだろうか……?
(俺は……そうしたかな……?
いや。俺はスパイだからな。
事件の火種になりそうな要素は調査したに決まってる。
だから……)
「あのとき出会えなくても、
もし隣のクラスだったとしても、
俺はきっと、ルイーズに会いに行ったよ」
「っ……。カイムさんは本当に口がお上手ですね」
「ありがとう」
「褒めてないですけど?」
「えっ? それでだ。
関係者が学校に居るってわかってる噂を
なんとかしていきたいと思う。
ただ今日は休みで
生徒たちの居場所もバラついてるから、
明日の朝から本格的に動こうと思うけど、良いか?」
「わかりました」
「それじゃあ明日は
猫車の便を三つ早くしてくれ」
「あの、私は猫車は使用していないのですが」
「ああ、そうだったか。
とにかくいつもより早く来てくれ」
「わかりました」
話がまとまった。
そう思ったとき、ジュリエットが声をかけてきた。
「私は? 私は居なくても良いのかな?」
「居てくれると助かるな。
俺なんかよりもジュリエットが相手の方が
証人も話がしやすいだろうし」
「そう? そう思う?
それじゃあ協力してあげようかな。ふふふ」
人に頼られるのが嬉しいのか、ジュリエットはにこにこと笑った。
その面倒見の良さを、ルイーズにも向けてやれないものか。
内心でそう思いながら、カイムは彼女に礼を言った。
「助かる。
それじゃ今日は解散で。
ルイーズ。急に呼び出して悪かったな」
「いえ。私のために尽力してくださり
ありがとうございます」
「好きでやってることだからさ。んじゃ」
カイムはガゼボから立ち去ろうとした。
するとその背中に、ジュリエットが声をかけてきた。
「あっ、カイム。今日の予定は?」
「とりあえずは寮で新聞でも読むかな」
「そう。暇ってことだね。もし良かったら……」
ジュリエットがカイムを誘うような気配を見せたそのとき。
ナスターシャがぴしゃりと割って入った。
「ジュリエットさま。
今日はこれから御学友の方々と
ランチの予定が入っておりますが」
「あっ、そうだったね。
約束を忘れるなんて、うっかりしてたよ。
ターシャが言ってくれなかったらすっぽかす所だった。
いつもありがとう。ターシャ」
「はい」
「じゃあね。カイム。
……レオハルトさんも」
ジュリエットはナスターシャと共に、カイムの前から去っていった。
残されたルイーズに、カイムは声をかけた。
「ルイーズはこれからどうするんだ?」
「特には。
昼食を済ませて、それから読書でしょうか」
「一緒に行くか? 昼飯」
「……はい。喜んで」
「学食って休みでもやってるんだよな?」
「そうですね」
「それじゃあそこで……。いや。
せっかくだから冒険者街にでも行くか」
「わかりました」
「それじゃあ……」
カイムはカゲトラに跨った。
そしてルイーズを自分の背に誘った。
「乗れよ」
「よろしいのですか?」
「みゃあ」
「良いって。ほら」
「……はい」
ルイーズはおそるおそると、カゲトラの背に腰かけた。
今のルイーズは、学校の制服姿だ。
下はスカートになっている。
ズボンの時のように足を広げて跨ることはできない。
ちょこんと横向きに座ったルイーズに、カイムがこう言った。
「何やってんだ?」
「はい?」
「掴まれよ。落ちるぞ」
「……はい」
ルイーズはカイムの背に体を寄せ、彼にぎゅっと掴まった。
猫は背中の気配に敏感なのか。
ルイーズの姿勢が定まったことがわかったらしく、カゲトラは走り出した。
ルイーズが、猫から落ちそうになることは無かった。
それを意外に思ったようで、ルイーズがこう言った。
「鞍や手綱が無くとも、案外なんとかなるものなのですね」
「加減してくれてるんだろ。
……カゲトラ。もっと飛ばして良いぞ」
「にゃ」
カイムの声が耳に届くと、カゲトラは突然に速度を上げた。
「ひゃっ!?」
驚いたルイーズは、カイムにぎゅっとしがみついた。
「はははっ」
カイムはいたずらっぽく笑った。
「もう……。びっくりさせないでください」
「悪い悪い」
「……カイムさんは、こういう事に慣れていそうですね」
「うん?」
「女の子を猫に乗せるようなことです」
「慣れてるってほどでも無いと思うが」
「そうですか……?」
(発育は悪くないと思うのですけどね。私は)
カイムにぎゅっとしがみついたまま、ルイーズは冒険者街へと移動した。
人通りの多い所まで来ると、カゲトラは走るのをやめた。
カイムとルイーズは、カゲトラから下りて向かい合った。
「良い店を知ってるんだ。ねこ席も有る。行こうぜ」
「はい」