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54/104

その27の2



「ふふふ。じゃーん」



 ジュリエットは楽しげに、3枚の紙を取り出した。



 文庫本の表紙よりも小さな紙に、なんらかの文字と絵が印刷されていた。



 何かのチケットのようだった。



「それは?」



「映画のチケットだよ。


 それも白黒じゃあ無い。


 最新のカラー映画だよ」



「カラー?」



「そうだよ。映画に色がつくんだ」



 この時代、映画というのはモノクロームの画面が普通だった。



 だが技術の進歩により、ついにカラーの映画が撮影されるようになった。



 ジュリエットが持つチケットの映画は、そんな最新技術を用いているらしい。



「そういえば、


 ラジオで言ってたような気もするな。


 けど、そんなことが出来るのなら、


 どうして今までの映画は色がついてなかったんだ?」



「……どうしてだろう?


 きっと、技術的に凄い何かが起こったんだよ」



「そうか。凄い何かがな」



「うん。凄いね」



「それじゃ、凄い何かを見に行くとするか」



 ふわふわとした言葉を交わしながら、三人は映画館へと移動した。



 そしてチケットを使い、中へと入って行った。



「席、どこにする?」



 カイムがジュリエットに尋ねた。



 だが。



「どこって? 私たちの席はあそこだよ」



 ジュリエットはそう言うと、館内を歩いていった。



 カイムは置いていかれないようにジュリエットを追った。



 この映画館では、座席の色は白で統一されている。



 だがその中に、妙に立派な赤い座席が有るのが見えた。



 いくつか並んだ赤い座席の中央に、ジュリエットは腰かけた。



 カイムがつっ立っていると、ジュリエットがカイムを呼んだ。



「どうしたの? おいで」



 それでカイムはジュリエットの右隣に腰かけた。



 ナスターシャはジュリエットの左に座った。



「何なんだ? この赤い席は」



「何って、指定席だけど。


 カイムって映画館に来たこと無いの?」



「俺がパパと行った映画館には


 指定席なんて無かったぞ」



「ふーん? 変わってるね?」



「ロイヤルだよな。おまえって」



「うん? まあね」



 やがて上映の時が近付き、館内の照明が消えた。



 カイムは左手の近くで、何かが動く気配を感じた。



 カイムは気配の方を見た。



 するとジュリエットの右手が、カイムの左手に近付いているのが見えた。



 カイムは視線を上げ、ジュリエットの顔を見た。



 ジュリエットはカイムの視線に気付いたようだ。



 気まずそうな表情を見せ、伸ばしていた手をひっこめてしまった。



(俺はべつに、ジュリエットに気が有るわけじゃないが……)



 こういう時は、男の方から手を伸ばすのがマナーなのかもしれない。



 そう思ったカイムは、ジュリエットの手を取った。



 ジュリエットは一瞬だけ体を固くしたが、すぐに力を抜いた。



 映画が始まった。



 長い長い上映が終わると、三人は映画館から出た。



 三人は、ふだん無表情なナスターシャですら、絶妙に微妙な表情をしていた。



「その……どうだった?」



 いたたまれない表情でジュリエットがそう尋ねた。



「主人公のスパイがマヌケだったな。


 それと色がついてた」



「うん……。ごめんね。


 良いかと思ったんだ。


 色がついてるから。


 けど、あんまり良い映画じゃ無かったかもね」



「いや。


 あんまり映画館とか来ないから


 新鮮で楽しめたよ。


 色もついていたし」



「……うん。色がね。


 技術の進歩って凄いね。


 それでさ、ああいう映画のためのカメラや映写機だって


 私たちがダンジョンで取った魔石で動いてるんだよね」



「ああ」



「やりがいが有る仕事だって思わない?」



「かもな」



「……あんまり興味無さそう」



「いや。そんなことは無いぜ。


 ただ男だったらさ、


 強くなったりとか、名を上げたりとかに


 関心が行くもんじゃねえの?」



「そういうもの?」



「ああ」



「そう?


 ……そろそろお昼だね。ランチに行こうか」



「分かった」




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