その27の1「防具屋と戦闘服」
「髪の色と合わせて
白なんてどうかな?」
「えっ? 白なんて目立つだろ?」
「目立つかな? 普通だと思うけど」
「その、ダンジョンでさ。
暗い色の方が敵に見つかりにくいんじゃないのか?」
「うーん。そうかもしれないけど。
どうせパーティで動くんだから、
キミ個人の格好とかはあんまり関係ないと思うな」
「…………」
確かに。
大勢で動く以上、個人の隠密性などに大きな意味は無いかもしれない。
そう理解しつつも、カイムの表情は固かった。
ミッションがうんぬんは建前で、単純に黒が好きなのかもしれない。
そんなカイムの心情を察したのか、ジュリエットがこう尋ねてきた。
「そんなに白が嫌?」
べつに黒に対してそこまで執着は無い。
……そのはずだ。
そう思ってカイムがこう答えた。
「そこまででも無いが」
「それじゃあ一回試着して、
似合うかどうか試してみようよ」
「わかった」
「うん。そんな黒はとっとと脱いでしまおう」
(黒が何をした……?)
黒への風当たりの強さに釈然としないものを感じる。
カイムはそう思いつつ、試着室のカーテンを閉めた。
そして戦闘服を脱ぐと、普段着すがたに戻った。
それから試着室を出ると、また防具えらびへと戻って行った。
「一口に白って言ってもいろいろ有るが……」
カイムはそう言って白い戦闘服を眺めた。
「そうだね。私が選んでも良いかな?」
「ん? まあ良いか」
「それじゃあさ、コレなんてどうかな?」
ジュリエットはそう言うと、棚から戦闘服を取り出した。
そしてそれを、カイムに見えやすいように持ち上げてみせた。
「このピンポイントの赤がオシャレだろう?」
ジュリエット一押しの戦闘服は、カイムの琴線に触れるものではなかった。
それでやや疑問系の言葉が口から漏れた。
「そうかな?」
「そうだよ。
ターシャもそう思うよね?」
「特には」
カイムのファッションになど、一寸の興味も無いのだろう。
ナスターシャは退屈そうに言葉を返した。
「えっ? なんだかテンションが低いね。
だいじょうぶ?」
「体調はバッチグーですが」
「なら良いけど。カイム、試着してみて」
「ん」
ジュリエットから戦闘服を受け取ると、カイムは試着室に入った。
そして白の戦闘服に身を包むと、試着室内の鏡を覗いてみた。
清潔感に溢れる美少年の姿がそこに見えた。
とはいえ、カイムは自分の美貌などとうに見慣れている。
特に心動かされることも無かった。
実際に着てみても、やっぱりしっくりこないな。
そんなふうに思いつつ、カイムは試着室のカーテンを開けた。
美貌の少年が姿を見せると、ジュリエットが瞳を輝かせた。
「やっぱり。
綺麗な銀の髪に
戦闘服の白がばっちり似合ってる。
すてきだよ。カイム」
「む……」
(ジュリエットも褒め術を使うのか。
社交術だと分かってても
実際ほめられてみるとまんざらでも無いな)
カイム自身の感性では、この防具はあまり好みには合わない。
それでも、ジュリエットに褒められると、悪くない気分になるのだった。
(だが舐めるな。
俺はトップエージェントだ。
そんじょそこらの褒め術で自分を曲げたりはしない。
黒が似合う男だしな。俺は)
俺は俺を貫く。
そんなふうに考え、カイムはジュリエットに反対意見を述べた。
「あのさジュリエット。
やっぱり前の黒のやつの方が良かったんじゃねえか?
夜目立たないしさ」
「えっ? 本気? ありえないよね?
ああそうか。冗談で言ってるんだね?」
「アッハイ。そうですね。
俺は白が似合う男です」
……。
自分を貫けなかった男が、白の戦闘服を購入した。
計33万メルクなり。
懐を寒くしたカイムは、ジュリエットたちと店の外へ出た。
カイムは片手に戦闘服が入った紙袋を持っていた。
それを見て、ジュリエットがこう言った。
「戦闘服はちょっと嵩張るね。
デートのジャマになると思うし、
私が収納しておくよ」
「よろしく」
カイムは紙袋をジュリエットに手渡した。
ジュリエットはそれをオリハルコンリングへと収納した。
「それで、デートだって言ってたよな?
これからどうするんだ?」