その25の2
(んじゃ、行くか)
カイムはカゲトラから視線を外すと、猫車のりばへと向かった。
そして猫車に乗ると、校庭に有る公園へと向かった。
公園前で車をおりたカイムは、園内の時計の下まで歩いた。
待ち合わせの場所についたカイムは、そこで二人を待った。
やがてジュリエットとナスターシャが姿を見せた。
カイムのすぐ近くまで来ると、ジュリエットが口を開いた。
「ごめん。待った?」
(待ったか待っていないかと言えば待ったが。
こういう時は待ってないと言うものだと
テキストには書いてあったな)
「いいや。今来たところだ」
カイムが模範解答を見せると、ジュリエットが微笑んだ。
「そう。良かった」
そのときナスターシャが小声でこう言った。
「白々しい」
「ターシャ?」
「いえ。なんでも」
ナスターシャが黙ると、ジュリエットはカイムに意識を戻した。
そしてうきうきとした口調でこう尋ねてきた。
「ストレンジくん。何か言う事はないかな? ほら」
今日のジュリエットの服装は、可愛らしさを強調したものだった。
ジュリエットがくるりと回ると、フリルスカートがふわりと揺れた。
(いつもとは雰囲気が違うな。
もっと格好良い系の服を着てくるかと思ったが、
意外に可愛い系も似合うな)
ジュリエットは男子との外出に備え、気合を入れて着飾ってきている。
カイムは鈍感だが、さすがにそれくらいの事はわかる。
何よりもこの程度の状況は、既にテキストで履修済みだ。
(女子と出かける時は
格好を褒めるのが鉄則だと
テキストには書いてあった。
相手に催促される前に、褒めるべきだった。
なんとも反射神経に欠けるな。不覚だ)
自分自身の言動にマイナス点をつけつつ、カイムは口を開いた。
「すごく可愛いな。
学校でのきっちりとした格好とは別の魅力が有る」
「っ……。ありがとう。嬉しいよ」
ジュリエットは言葉どおり、嬉しそうな笑みを浮かべた。
そして次にこう言った。
「それじゃあ行こうか」
「どこに行くんだ?」
「冒険者街だよ。
もともとこの辺りは田舎だから、
ショッピングをするってなったら
その辺りしか無いんだよね」
「そうなのか?」
「そうだけど……何?」
「この学校って、
色々と学科が有るよな?
鍛冶科の連中が
試作の防具とかを売りに出してて
安く手に入るみたいな話を聞いたんだけど、
そっちで買うんじゃダメなのか?」
「……まあそういうのも有るけど。
信頼できる店で買わないと、
目利きをするのが大変だよ」
「防具の目利きくらいなら
できなくも無いと思う」
「曖昧だね?
防具は冒険者の命綱なんだから、
きっちりしないとダメだよ。
それにせっかくのショッピングを、
学校だけで済ませるなんて味気ないだろう?」
「そういうもんか?」
「そういうもんなの。さ、行こう」
三人は猫車のりばへと向かった。
そして猫車で校門の方へと向かった。
そこから別路線の猫車に乗り換え、学校の敷地から出た。
少しみゃーみゃーと揺られていると、すぐに街が見えてきた。
「見えてきたよ。あれが冒険者街さ」
「立派なもんだな」
冒険者街は、しょせんは地方の街だ。
その面積はそれほど広いわけではない。
そんな街の規模に似つかわしくないような建築物の群れが、カイムの瞳に映されていた。
「ウェルムーアダンジョン周辺の開発は
エスターラの国家事業だからね。
あまりみすぼらしくては
国外からやって来る冒険者に笑われてしまうよ」
「そうか。
……治安はどうなんだ? こういう所って。
ヤバいギャングとかが居たりとかさ」
「ほどほど……かな?
国も治安には
ある程度は気を遣っていると思うけど、
やっぱり冒険者っていうのは
ギラギラとした人が多いからね。
それにお金の匂いが有ると
悪い人が寄って来やすくなると思うし。
けどそういうのは、
あるていど栄えた街には
つきものの問題だと思うよ」
「それじゃ、ほどほどに気をつけるか」
「うん。行こうか。
デートの仕切り直しに」