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その3の1「降格と次の任務」


「……本当に俺が裏切ったって思ってるんですか?」



「信じていたよ」



「え……?」



「きみであれば、あの程度の任務は、


 たやすくこなせるものだと信じていた。


 その期待を、きみは見事に裏切ってくれた。


 そういう意味では


 きみは間違いなく裏切り者だな」



「それは……申し訳ありません……」



「何にせよ、ありえない失態を犯したきみを、


 今まで通りに扱うわけにはいかない。


 まずはきみから三つ星エージェントの称号を剥奪する」



「一つ星ですか」



「いいや。二つ星だ」



「それって……」



「普通のスパイには与えられない称号だ。


 縁起が悪いからな。


 ダブルというのは。


 どうしてもダブルエージェントを連想させる。


 そんな数だ。


 星の数は一つ星より多いが、


 一つ星よりも信用に欠ける。


 そんな者に与えられる星だ。


 その不名誉な称号を、キミに背負ってもらう」



 ダブルエージェント、二重スパイ。



 国に忠誠を誓いながら、裏で他国に仕え、国家を害する存在。



 その嫌疑をかけられることは、スパイにとって最高の侮辱だと言えた。



「裏切りの理由、


 プライドを踏みつけられたから、なんてどうです?」



「それで裏切るような男を


 トップエージェントの座に据えたとなれば、


 人事担当のクビを切らねばならんな」



「物理的に?」



「いや。今の時代に斬首など、はやらんからな。


 絞首刑か銃殺が妥当だろう」



「……そうですか」



「それでだ。きみの次の任務だが、


 二つ星に降格したきみに、


 今までのような重要な任務を


 割り振るわけにはいかない」



「……はい」



 カイムは拗ねた様子を見せつつ、ジョンの言葉に逆らうことはできなかった。



 任務を失敗したことは事実だ。



 罰を受けるのは仕方がないと思っていた。



 だが。



「きみは青春とかに興味はあるかな?」



「……はい?」



 予想もしなかったジョンの言葉が、カイムの思考を硬直させた。



「これを」



 ジョンは執務づくえの引き出しを開けた。



 彼はそこから一冊の小冊子を引っ張りだしてきた。



 冊子の表紙に印刷された文字を、カイムはぼんやりと読み上げた。



「オーンルカレ冒険者学校……?」



「知らないか?


 そこそこ有名な所だと思うが」



「そりゃあ知ってますよ。


 エストメイフィア四大国の


 国境付近に建てられた学校ですよね?」



 大陸の西端、エストメイフィア地方には、四つの大国が有る。



 西のクリューズ帝国、東のエスターラ王国、南のハースト共和国と北のアミルカ共和国だ。



 どれも菱形に近い形をしている。



 そして地方の中央には、菱形の頂点が集結する国境地帯が有る。



 その国境地帯から少し東に行った所に、地方最大と言われる大型ダンジョンが有る。



「そう。明確にはエスターラ領だが。


 それにおそらくは、


 きみの故郷が有った辺りでも有るな」



「有った……ね。


 里帰りでもしろって言うんですか?」



「それも良いが。


 きみにはその学校に、


 学生として編入してもらいたい」



「……目的は?」



「『占い師』からのお告げが有った。


 ちかぢかその近辺で、


 国際情勢を揺るがすほどの事件が起きる。


 きみは学校に潜入し


 情報収集を行い、


 その火種を探って欲しい」



「『占い師』ですか。


 つまり、ほぼ確実ってことですね。


 ところで、俺を彼女に会わせてもらうって話は……」



 占い師とは、この国の預言者のような存在だ。



 人の運命を読み取る力を持っていると言われている。



 これまでに何度も災害などを予知し、人々を救ってきたらしい。



 カイムはとある理由から、占い師との面会を希望していた。



 だがその願いは、未だ叶えられてはいない。



「言うまでも無いが、


 彼女はこの国の最重要人物だ。


 首相以上のな。


 あのコリン=ラッシュ総理大臣であっても


 気軽に面会できるような人物では無い。


 つまり、二つ星に落ちたきみにはムリな話だ。


 まずは目の前の任務をこなし、


 信頼を取り戻すことだな」



「分かりましたけど……。


 情報収集って、


 わざわざ俺が出向くほどの仕事ですか?


 三つ星エージェントの……」



 カイムは暴力に特化したエージェントだ。



 スパイ機関においてはかなり特殊な、切り札のような存在だ。



 乱暴な手段に頼らないのであれば、情報収集能力はそれほどでもない。



 そんな自分を情報収集に使うというのは、宝の持ち腐れではないのか。



 カイムはそう思わざるをえなかった。



「二つ星。


 忘れたのか?


 今のきみは二つ星だ。


 これはただの任務では無い。


 きみという人材の真贋を計るための


 試金石でもあると思ってもらおう」



「もし火種を見つけられて


 事件を未然に防いだら、


 三つ星に戻してもらえるんですかね?」



「そうだな。


 もしそれが叶えば、きみは英雄だ。


 占い師に会いたいという望みも


 夢では無くなるだろうな」



「了解しました。


 とはいえ、学生のフリなんて、


 ちょっと自信がありませんね。


 潜入任務自体は経験が有りますが、


 どれも短期の任務でしたし、


 そのときは大人に変装したり、


 ワケ有りの子供を演じたりで、


 普通の学生を演じた経験は


 一度もありません。


 やるからにはもちろん


 死に物狂いでやりますが、


 平均的な学生らしい所作を身につけるのに、


 優秀な教官でも用意していただければと思いますが」



「ああ、ちなみに……。


 きみの編入はあさってと決まっている。


 よろしく頼んだぞ」



「なに考えてんだジジイ!?」



「うん? 反逆する気か?」


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