その24の1「ジュリエットと昼食」
「デートじゃないと思うが。
ルイーズも一緒なわけだし」
「む……。本当に?
これらかの食事がデートである確率が
1%すら存在しないと
本当に言い切れるのかな?」
(これらか?)
「まあ1%くらいは有るかもしれんが」
「だろう?
それでは始めようじゃないか。
私たちのデートを……!」
燃えるような気合と共に、ジュリエットは校舎へと入っていった。
(99%デートじゃないけどな)
温度差を感じながら、カイムもその後に続いた。
ルイーズ、ナスターシャも加えた4人とカゲトラとで、一行は学食へと入った。
「どこに座る? 前と同じ席にするか?」
カイムがルイーズにそう尋ねた。
するとジュリエットが疑問符を浮かべた。
「前の席って?」
「あのすみっこの席ですね」
ルイーズは前にカイムと座った席を指差した。
「…………?」
ジュリエットは理解に困るといった感じの表情を浮かべた。
「どうしてわざわざあんなジメジメした席に
座る必要が有るんだい?
私はいつも、
あの日当たりの良い席に座ってるんだ。
行こう」
ジュリエットはそう言うと、テーブルの間を歩いていった。
「こんにちわ。ヴィルフさん」
「良い天気ですね。先輩」
人気者のジュリエットに、学生たちが声をかけてきた。
ジュリエットは微笑みと短い挨拶を返しながら、日当たりの良い席にたどりついた。
「こんな良い席が、
よく今まで空いてたな」
学食の席は、早いもの勝ちのはずだ。
居心地の良い席は、すぐに取られてしまうのが普通なのではないか。
カイムはそんな疑問を浮かべた。
それに対し、ジュリエットはしれっとこう言った。
「うん。ここは私の席だからね」
(そういうもんなのか……)
一行は着席した。
注文待ちの合図を出し、給仕を待つことになった。
すぐに給仕の一人が、ジュリエットたちに気付いた様子を見せた。
それでまっすぐにテーブルに近付いてきた。
だがその給仕は表情を硬くし、途中で足を止めてしまった。
ジュリエットの隣にルイーズが居ると気付いたらしい。
(さあどうなる……?)
カイムは給仕の言動に注目した。
(ジュリエットの正のオーラと
ルイーズの負のオーラ、
いったいどっちが勝つんだ……?)
給仕が足を踏み出した。
前へ。
カイムたちに近付いてきた。
そして……。
「…………」
給仕はUターンすると、気まずそうに遠ざかっていった。
(マジかよ。
ルイーズが勝った……?
勝ちって言って良いのかコレ?
とにかくジュリエットが負けた……。
すっげぇ事になったな……)
そんなことも知らないジュリエットは、どこか浮ついた表情で給仕を待った。
待った。
だが、給仕がジュリエットたちのテーブルを訪れることは無かった。
ついにジュリエットもこの状況を怪しみ始めた。
「変だね……?
いつもは合図を出しておけば
すぐに注文を取りに来てくれるのに。
あのテーブルの子たちとか、
私たちより後に来たんじゃない?
もう食べ始めてるよ。
給仕さんに声をかけてみるね。
……ねえ、良いかな?」
ジュリエットは一番ちかくに居た給仕に、通りの良い声で話しかけた。
「……はい」
王女じきじきに声をかけられては、無視することなどできない。
給仕が硬い表情でジュリエットに近付いてきた。
「あのさ、
私たちはもう何分も前から
注文待ちをしているんだけど、
どうして注文を取りに来てくれないのかな?
あまり待たされるとお昼休みが終わってしまうよ」
「……申し訳ありません。殿下。
ついうっかりと、気付きませんでした」
「そう?
人間ミスも有るものだとは思うけど、
次からは気をつけてよね」
「……はい。ご注文をどうぞ」
カイムたちは注文を口にした。
注文を取り終えた給仕は、よろよろとその場を去っていった。
「マナー違反じゃないのか?
注文の合図を出してるのに
こっちから声をかけるのは」
前にルイーズに言われたことを思い出し、カイムがそう尋ねた。
「普通はそうだけど。
向こうに明らかに問題が有るのに
何の文句もつけないっていうのは
マナーを守ってるんじゃなくて
卑屈になってるだけだと思うよ」
「なるほど……。
そうらしいぞ。ルイーズ」
「……はい」
四人は料理を待った。
ジュリエットの料理が真っ先に運ばれてきた。
料理がテーブルに置かれても、ジュリエットはそれに手をつけようとしなかった。
「ジュリエット」
「うん?」
「食べないのか?」
カイムが尋ねた。
「当たり前だろう?
皆の料理が来てないのに、
私だけ食べ始めるなんてことできないよ」
(そういうマナーも有るのか……)
次にターシャ、カイム、カゲトラ、ルイーズの順で、料理が運ばれてきた。
全員の料理が揃うと、ジュリエットは食器を手に取った。
カゲトラはマイペースで既に食べ始めていた。
カゲトラ、カイム、ターシャ、ジュリエットの順で昼食を食べ終えた。
ルイーズの皿の上には、まだ料理が残されていた。