その23の1「ダンジョンと狼」
続けてナイフを抜き出してからこう言った。
「銃で仕留められない相手にはコイツを使う」
「拳銃にナイフ?
ハーストのダンジョンっていうのは
ずいぶんとレベルが低いみたいだな。
そんなのでヴィルフさんと決闘する気だったのか?
そのへんのザコが相手ならともかく、
ランカーのヴィルフさんに
銃なんか通用しないぞ」
ロジャーの侮りの言葉を、カイムは受け流すことにした。
「そうかもな」
「ちょっとは言い返したらどうなんだ?」
さらに噛み付こうとしたロジャーをジュリエットが咎めた。
「こら、ケンカしないの。
二人とも、戦闘用のスキルは持ってるかな?」
「いえ。特には」
ルイーズがそう答えた。
次にカイムがこう言った。
「俺は状態異常に耐性が有る。
毒とか……精神攻撃なんかも効きにくい。
一部の特殊な魔獣を相手にするとき以外は
死にスキルみたいなもんだが」
「そっか。どうしようかな。
ストレンジくんもレオハルトさんも、
二人とも後衛タイプなんだね。
これで準備が万端だったら
ナイフも使えるストレンジくんを前衛にして
レオハルトさんが後衛で良いと思うけど、
ジャージのストレンジくんを
さすがに前には立たせられないね。
それじゃあ、ハインスくんに前衛を任せても良いかな?
重戦士のハインスくんが盾役をして、
それを二人に援護してもらう。
そうやって力試しをしてもらおうかな。
ターシャとブロスナンくんは周囲の警戒。
私はいざという時のフォロー役に回るね」
「わかった」
異存は無い。
ジュリエットの言葉を受け入れたカイムは、前衛のドスに声をかけた。
「よろしくな。ドス」
「ああ。よろしく。カイム」
カイムたちは、ドスを先頭にして20層を探索した。
ダンジョンの岩壁は、それ自体が仄かな光をはなっている。
灯りを用いなくても、最低限の視界は確保されていた。
ダンジョンには魔獣が巣食う。
少し歩くと、一行は魔獣に出くわした。
狼型の魔獣だ。
魔獣の方も、カイムたちの存在に気付いたようだ。
魔獣は生まれつき、人への殺意を持っている。
黒い狼が、殺気で輝いた目をカイムたちに向けた。
一般人には恐ろしい相手だが、ジュリエットたちはハイレベルの冒険者だ。
魔獣の殺意を受けても、とくに気後れすることは無かった。
ジュリエットは落ち着いた声音で、カイムたちに話しかけた。
「ブラックウルフだね。
レベルの割にすばしっこい魔獣だから気をつけ……」
ジュリエットが言葉を終える前に。
「みゃー!」
気合の声と共に、カゲトラが前に出た。
猫は温厚な生き物だが、魔獣相手には容赦をしない。
強烈なねこパンチが、ブラックウルフを壁まで吹き飛ばした。
ねこパンチの威力に耐え切れず、ブラックウルフはそのまま絶命した。
魔獣は死ぬとその体を消滅させる。
世界の法則のままに、ブラックウルフは消滅した。
そして地面にイシを落とした。
そのイシは、魔獣の核である魔石だ。
ブラックウルフは闇属性の魔獣だ。
それが落とした魔石は、闇のように黒かった。
「みゃふ」
勝利を果たしたカゲトラは、カイムたちに得意げな様子を見せた。
ジュリエットは驚きを隠さずにこう言った。
「びっくりした……。
……ええと。
カゲトラさんは
中層でもじゅうぶんに通用しそうだね。
次は二人の力を見たいから、
カゲトラさんはちょっと控えてもらえるかな?」
「みゃ」
わかったよ。
カゲトラはそう言って、少し不満そうに後ろに下がった。
ナスターシャは魔石を拾い上げると、オリハルコンリングに収納した。
一行は20層の探索を続けた。
すると二体の白い狼と遭遇した。
ホワイトウルフだ。
聖属性の魔獣。
などと言うと清らかな印象を受けるが、その本質は他の魔獣と変わらない。
人を見れば殺す。
殺意に支配された獰猛な獣だった。
その本能に従い、獣たちはカイムたちの方へと駆けた。
「来るよ!」
ジュリエットが仲間たちに注意を促した。
「任せろ」