その17の1「アルベルトと友人」
「そうさせてもらおう」
「……無罪放免ですか?」
「さきほども言ったが、
まだ信用はしていない。
だが、おまえがただ姑息なだけの男で無いということは分かった。
……どうか妹を傷つけないで欲しい
それがジュリエットの兄としての俺の願いだ」
「そのへんは……完全には保証はできませんが」
「…………?」
「ルイーズのことがありますから」
「ルイーズ……? レオハルトさんのことか」
「はい。彼女の学校生活は、
あまり輝かしいものでは無いようです。
大げさなレッテルを貼られて、
まるで悪役のような扱いを受けている。
そしてクラスの中心人物であるジュリエットも
その噂を鵜呑みにしてしまっているようです」
「あいつめ……」
アルベルトはジュリエットを責めるような表情を浮かべた。
「御存知なかったのですか?」
「……ああ。
男女で寮も違うし、
きょうだいだとは言っても、
そこまで親密に話すわけでも無いんだ」
「そういうものですか」
(決闘は見てたのに)
「ああ。おまえはきょうだいは居ないのか?」
アルベルトの問いに、カイムは即答できなかった。
カイムは言葉を濁してこう答えた。
「俺は……まあ、色々とありまして」
「詮索しすぎたか。悪いな」
触れてはいけない部分に触れてしまったのだろうか。
アルベルトはそう思ったらしく、家族に関する話を打ち切った。
それを見て、カイムはルイーズの話題に戻ることにした。
「……とにかく俺は、
ルイーズのむちゃくちゃな噂について、
なんとかしたいと思っています。
まあ俺も、
ルイーズについて何もかも知っているわけではありませんから、
ひょっとしたら悪い噂の中に
真実が混じっているのかもしれませんが……。
今まで俺が見た限りでは、
ルイーズは良い子だと思います」
「そうだな。
ジュリエットのやつも、
まじめに向き合っていれば
分かると思うんだがな。
レオハルトさんが邪悪な存在ではなく、
どちらかと言えば
人類の味方寄りの存在だということは……」
(おや? なんだか語彙のスケールが大きいぞ?)
アルベルトの言葉にカイムが表情を変えると、アルベルトは疑問符を浮かべた。
「どうした?」
「いえ」
言い回しのことなど、今はどうでも良い。
そう思ったカイムは話を進めることにした。
「出会う前から悪評が耳に入っていると
どうしても第一印象に
悪い影響が出てしまうのかもしれませんね。
そうすると彼女の言動を見る目にも
どうしても偏見が混じってしまう。
そういうことなのでしょう。
根も葉も無い悪評については、
晴らしてあげたいと思っています。
それで、ジュリエットは噂を信じている側ですから、
俺がそのために動くことで、
対立してしまうことが有るかもしれません。
ひょっとしたら、
手痛い目に合わせてしまうかも。
そういうことで、
俺がジュリエットを傷つけないということに関しては
完全には保証はできません。
悪意をもって傷つけるつもりはありませんけどね」
「ああ。わかった。
レオハルトさんと友好的な関係を築いていくことは、
エスターラの未来にとっても重要なことだ。
王族として軽はずみな行動を取ったジュリエットが
少しくらいお灸をすえられるのは
仕方ないだろうな。
とはいえ……ほどほどにな」
「了解しました」
(話が通じる人で良かった)
アルベルトはさいしょ、ジュリエットとの件でカイムを咎めてきた。
この人は、妹に過保護なのではないか。
カイムはアルベルトに、そんな第一印象を抱いていた。
だが実際は、腐れシスコン野郎というわけでは無いらしい。
良かった。
王子がシスコンでなくて良かった。
カイムは天に感謝しつつ、アルベルトとの話を終えた。
アルベルトに声をかけられる前、カイムは寮に帰る途中だった。
それを思い出したカイムは、寮に足を向けることにした。
アルベルトも、カイムの隣を歩いてきた。
目的地は同じのようだ。
王子も冒険科の生徒なのか。
あの強さなら当然かもしれない。
カイムはそう思いながら、彼と一緒に寮に入った。
そして玄関を抜けたところで解散することになった。
「じゃあな」
(この人と同じ建物に住んでるのか。
なんか妙な感じだな)
「どうした?」
「いえ。それでは」