その12の1「決闘と意外な決着」
「アッサリだね。
もうちょっと悩むかと思ったよ」
「勝てば良い話だしな」
ルイーズにカネを出してもらえば、勝敗に関わらず借金を負うことになる。
ジュリエットとの賭けということなら、カイムには負けるつもりは無い。
心情においてはタダと変わりが無かった。
それにカイムが友情を育みたい相手は、ジュリエットではなくルイーズだ。
もし借金を負うにしても、ジュリエットが相手なら心は痛まないだろう。
そんな気持ちも有り、カイムはジュリエットの提案を受けた。
「えっ? 私のお金は良いんですか?
いくらでもお貸ししますよ?
無利子、無担保ですよ?
何の社会的責任も負いませんよ?
怖い取り立ても無く
完全に安心ですよ?」
蚊帳の外に置かれているのが嫌なのか。
ルイーズは少し焦ったかのような口調でそう言った。
「気持ちだけ貰っとくわ」
「そうですか……」
ルイーズはしゅんとした様子を見せた。
そんなにお金を貸したかったのだろうか?
「それじゃ、決闘するか」
「うん」
いくら荒っぽい冒険者でも、教室で決闘をしたりはしない。
カイムとジュリエットは校庭へと向かった。
ルイーズとターシャもついてきて、野次馬たちもそれに続いた。
カイムたちは周囲をギャラリーに囲まれる形になった。
ジュリエットは決闘の指輪を装着した。
そしてもう一つの指輪をカイムに差し出してきた。
「はい。キミの分の指輪」
カイムは指輪を受け取ったが、すぐに装着することは無かった。
彼はジュリエットに疑問の言葉を向けた。
「ちょっと待ってくれ。
決闘の指輪っていうのは、どれも同じものなのか?」
「売店で売ってる物に関してはそうだと思うよ。
学校以外のところで取り扱ってる物に関しては
私も詳しくは無いけど……」
「いちおう、そっちの指輪も見せてくれるか?
違いが無いか確認しておきたい」
「心配することは無いと思うけど……。
それでキミの気が済むのなら、
好きにすると良いよ」
ジュリエットは装着していた指輪を外し、カイムに差し出した。
カイムは指輪を受け取ると、両方の指輪をじろじろと観察しはじめた。
「どうかな?
顕微鏡も無しに
魔導刻印を見比べられるとも思わないけど……」
魔導器の魔石には、精緻な刻印が施されている。
刻印作業には、顕微鏡を用いるのが常識だ。
イシに刻まれた刻印とは、それほどに細かいものだ。
裸眼で少し眺めた程度では、何かがわかるとも思えなかった。
「そうだな。
見ても良くわかんねえわ。
ありがと」
気が済んだのか、カイムは指輪の片方をジュリエットに返却した。
ジュリエットは戻ってきた指輪を再び装着した。
カイムの方も、手中に残した指輪を自身の指にはめた。
「用意が良いのなら、
私の指輪とキミの指輪のイシを
こつんと突き合わせるんだ」
「ん」
ジュリエットがカイムに拳を伸ばしてきた。
カイムも手を握ると、自身の指輪をジュリエットの指輪へと向けた。
イシとイシが触れ合った。
指輪が輝きをはなった。
赤い半透明のドームが形成され、カイムとジュリエットを囲んだ。
二人は障壁によって見物客たちとは隔絶されることになった。
「これが決闘用のフィールドだよ。
フィールドの外に流れ弾が向かうのを
防いでくれる。
それに、決闘者たちは
戦いに決着がつくまでは
このフィールドから出ることはできない」
「もう決闘は始まったってことで良いのか?」
「ここからお互いに10歩ずつ離れるのが作法だね」
「そうか」
カイムはジュリエットに背を向けて歩いた。
1、2、3、4、5、6、7、8、9、10歩。
歩き終え、カイムは振り返った。
それとほぼ同時に、ジュリエットもカイムへと振り返った。
二人は視線を重ね合わせた。
カイムの眼光は平然とし、ジュリエットの眼光は燃えていた。
「これで決闘開始だ。
ところで、キミの『天職』は何かな?」
天職とは、人々に生まれつき与えられる神々の加護だ。
持って産まれた天職によって、得意な戦い方が変わってくる。
冒険者にとっては非常に重要な資質だ。
「いま聞くことか? それって」
「キミの得意な距離で戦ってあげようと思ってね。
ちなみに、私の天職は『焔騎士-ほむらきし-』。
遠近両方で戦える
バランスの良い天職だよ」
焔騎士は、剣術と炎魔術への適正を持つ、強力な前衛職だ。
冒険者という職業にはうってつけだと言えるだろう。
素直に手の内を晒したジュリエットに対し、カイムはこう答えた。
「そうか。
俺の天職は『テイマー』だ」