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22/104

その11の2



「……………………」



「……………………」



 二人の間、そしてその周囲にも沈黙が訪れた。



 ターシャがカイムに向ける視線は、いつもより冷え冷えとしているように見えた。



 次にジュリエットは、気遣うような笑みを浮かべてカイムにこう言った。



「ええと……どうやら決闘は


 私の勝ちのようだね。


 お金が貯まったらまた挑んで来てよ」



 そんな締まらない結末は、カイムにとっては冗談ではない。



「か……カネなら有る……!


 ハーストの銀行に……」



 カイムは慌ててそう言った。



 だが……。



「この辺りに支店が有ると良いけど。


 とにかく今は無理なようだから、


 キミとレオハルトさんの関係について話を戻そうか」



 銀行にいくらカネが有ろうが、いま手元に無いことには変わりがない。



 そう判断したジュリエットは、決闘の話を流そうとした。



 そのとき。



「待ってください」



 事態を見守っていたルイーズが、二人に声をかけてきた。



「ルイーズ……」



「お金なら、私が持っています。


 こう見えて皇女ですから。


 カイムさんの決闘にかかる代金は、


 私が立て替えさせていただきます」



 ルイーズがそう言うと、野次馬たちががざわめきだした。



「男のためにポンと16万も出すなんて


 さすがはレオハルトさんだ」



「やっぱり噂の通り……


 レオハルトさんは


 カネで男を買うような人だったのか……!」



「するとあの噂も本当なのか……!?


 一晩で1000人の娼夫を雇って


 酒池肉林の宴を繰り広げたっていうのは……!」



「やっぱりレオハルトさんは


 噂の通りの魔女……


 大淫婦の化身なんだ……!」



「俺も買われてみてぇ……!」



 根も葉もない噂が、ルイーズの耳に雪崩れ込んできた。



「えっ、あの、これはそういう事では無くてですね……?」



 ルイーズは慌てて弁解しようとした。



 それをカイムの声が遮った。



「ストップストップ。


 ……ルイーズ。


 気持ちはありがたいんだけどさ、


 友だち同士でカネの貸し借りは


 どうかと思うぞ。


 借金は友情を壊すって


 きのう読んだ本にも書いてあったぜ」



 カイムにとってルイーズは、冒険者学校での初めての友人だ。



 明確に確認したわけでは無いが、カイムは勝手にそう思っている。



 そんな彼女との関係を、カネなんかのことで壊したくはない。



 カイムはそう思っていた。



 そんなカイムの言葉に対し、ルイーズは胸を張ってこう返した。



「だいじょうぶです。


 私が読んだ本にも書いてありましたが、


 借金が友情を壊すのは、


 お金を貸した側が、


 お金を返してもらえない事を


 根に持つからです。


 私はカイムさんがお金を返してくれなくても


 まったくこれっぽっちも気にしませんから。


 だからだいじょうぶですよ」



「ちっともだいじょうぶじゃ無いんだが?」



「それにこの決闘は、


 私のためを思ってしてくれる事なんでしょう?


 だったら、私も無関係ではありませんから。


 私にもできることをさせてください」



「そうは言うがなあ……」



 ルイーズが何と言おうが、カイムは借金などしたくはなかった。



 気乗りがしないカイムに、ジュリエットがこう提案した。



「だったらさ、こういうのはどうかな?


 今回の決闘に、


 デートの権利だけじゃなくて


 16万メルクも賭けるのさ。


 それを前借りして、


 キミは私から決闘の指輪を買う。


 キミが勝てば指輪代はチャラ。


 私が勝てば、


 32万メルクがキミの借金になる。


 その借りは、


 私たちのダンジョン攻略のパーティで


 仕事をすることで返してもらう」



「良いのか? 王女さまがカネの貸し借りなんかして」



「王侯貴族と借金というのは切っても切り放せないものだよ」



 古今東西、政治にはカネが必要となるものだ。



 貴人には見栄による浪費も有る。



 そのせいで借金を抱えた貴人の話は、枚挙にいとまがない。



「堂々と言う事か? 良いぜ」



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