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その10の1「王女と提案」



 核になる部分を先に告げ、カイムは細部の話を進めた。



「知っての通り、コルシカ帝は、


 半世紀前の大戦の中心人物だ。


 彼はまず、隣国であるエスターラへと戦争をしかけた。


 結果はクリューズの勝利。


 コルシカ帝が死亡するまでの数年間、


 エスターラはクリューズに服従することになった。


 エスターラ人にはまだ、


 その頃の記憶が残っている人も多い。


 そしてここは、エスターラの学校だ。


 多くの留学生を受け入れてはいるが、


 それでもやっぱり、


 生徒の半数はエスターラ人だ。


 この学校は、ルイーズにとっては、


 悪い噂を立てられやすい所なんじゃないかって事だよ」



 学校の若者たちにとって、戦争は遠い過去の話だ。



 だが、彼らの祖父母には戦争当時を知る者も多い。



 若者たちが何の影響も受けていないとは言い切れないだろう。



「それは……」



 カイムの言葉に一理あると思ったのか。



 ジュリエットは即座に反論をすることはできなかった。



 彼女の顔に、ほんの短い間だけ、迷いの影が差した。



 だが彼女は、すぐに凛々しい表情を取り戻すと、カイムに対してこう言った。



「だけど……。


 実際に遅刻はしてきたじゃないか。


 キミたちは」



「そうだな。


 けどだからって、他の悪い噂までもが


 真実だってことにはならない。


 俺が見た限りじゃあ、ルイーズは悪い奴じゃない」



「たとえ噂の全部が真実じゃ無かったとしても、


 授業に遅刻するっていうのは


 じゅうぶんに悪いことだと思うし、


 人の信用を下げる行いだと思うよ」



「そうか。だったら……。


 これからルイーズは遅刻癖を改める。


 そうしたら、


 そっちのルイーズに対する見方も


 ちょっとは改めてもらえるか?」



 ルイーズの遅刻は、非行では無かった。



 とはいえ、彼女がこのまま遅刻を続けても良いとはカイムも思っていない。



 だからカイムは、ジュリエットにそう提案した。



 対するジュリエットは、カイムに疑わしげな視線を向けた。



「遅刻を無くすなんて、


 本当にそんなことができるのかな?


 彼女が授業に遅れてきたのは


 一度や二度じゃないんだよ?」



「なんとかする。


 ただし、そっちにも一つ、


 俺の頼みを聞いて欲しい」



「何かな?」



「これからの昼食は、


 俺たちと一緒に食べて欲しい」



「どうして私がそんな事を……」



「クラスのリーダーなんだろ?


 クラスの問題児が


 更生できるようにするのも


 リーダーの務めなんじゃないのか?」



「べつに私はリーダーになったつもりは無いけど……。


 でも、そうだね。


 教室は社会の縮図だという言葉も有る。


 教室の秩序を保つことは、


 王族である私の責務かもしれない」



「ん? 王族?」



「えっ?」



「えっ?」



「まさか……それも知らなかったのかい?」



「悪い……」



「はぁ」



 ジュリエットの後方で、ターシャがため息をついた。



 彼女は心底あきれかえっているといった感じの視線をカイムへと向けた。



 そして鋭い口調でこう言ってきた。



「だからジュリエットさまに対して


 あのように無礼な態度を取れたのですね。


 このお方は、ジュリエット=ヴィルフ殿下。


 エスターラ王アルフレート=ヴィルフ陛下の長女にして


 王位継承権の第四位を所持する


 王女殿下にあらせられますよ」



(だから長官……。


 教えといてくださいよ……)



 祖国のジョンに呪怨を向けると、カイムはターシャにこう尋ねた。



「ちなみに不敬罪でアレされたりとかは……」



「私はそこまで狭量じゃないよ。


 キミを絞首台に送ったりはしないから


 安心して欲しい」



 ジュリエットは王者の笑みを浮かべてそう言った。



(やろうと思えばできるってコト?)



「ビックリしたけどね……。


 この学校に私のことを知らない人が居るなんて、


 本当にビックリしたけど……あはは……」



 自分を知らない者が居たということが、よほどショックだったらしい。



 ジュリエットの瑕疵の無い笑みは、やがて苦笑いへと変わった。



「……すいませんでした」



 カイムはようやく王族に対する礼を見せた。



 するとジュリエットは、親しみやすい笑みと口調でこう言った。



「そう畏まらなくても良いよ。


 キミと私はクラスメイトだ。


 今までのように気軽に接して欲しいな」



「……了解」




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