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その7の2




(この子、昨日に見た子だよな。


 決闘ごっこの)



 先日、猫車の中で、カイムは生徒たちが起こした騒ぎを目撃していた。



 学生同士で決闘をするという人騒がせな遊び。



 視線の先の少女は、その騒ぎの当事者に違いなかった。



「私はジュリエット。


 ジュリエット=ヴィルフだよ。よろしくね」



 少女、ジュリエットは名乗り、握手のために手を差し出そうとした。



 だが……。



「あっ!」



 ジュリエットの手が上がりきるより前に、カイムは何かに気付いた様子を見せた。



 そして椅子から立ち上がり、ジュリエットの隣をすり抜けていってしまった。



「えっ……」



 握手を袖にされたジュリエットは、呆然とした声を漏らした。



 カイムは生徒たちの間を抜け、青銀髪の女生徒に近付いていった。



 そして彼女に声をかけた。



「昨日会ったよな? ほら、公園のガゼボで」



「……はい」



 カイムが声をかけたのは、きのうの公園で出会った少女に違いなかった。



「そうですけど……。よろしいのですか?」



 少女はカイムから視線を外し、彼の後ろを見た。



 少女の視線の先で、ジュリエットが握手の体勢で固まっていた。



 彫像のようになったジュリエットに気付かないのか、カイムは話を続けた。



「何が? それより昨日、


 本を忘れて行っただろ?」



「はい。途中で気付いて取りに戻ったのですが……」



「俺が預かってるんだ。


 鞄に入れてあるから、取ってくるよ」



 カイムは本を取るため、自分の席に戻ろうとした。



 そのとき。



「あなた。失礼ですよ。


 ジュリエットさまに対して……」



 ジュリエットの隣に立つ少女がカイムを睨んだ。



 少女はなぜかメイド服を着ていた。



 黒髪ショートヘアの少女で、顔にはメガネを装着していた。



(この子はなんでメイド服を着てるんだろうか?)



 カイムはそう考えたが、あえて口には出さなかった。



 そして軽い調子でジュリエットに向かって謝罪した。



「ああ。悪い。話の途中だったな」



 そんなカイムの態度を、メイド服の少女は気に入らなかったらしい。



「何ですかその態度は」



 少女はカイムを責める様子を見せた。



 それを見て、ジュリエットが口を開いた。



「良いんだ。ターシャ。私は気にして無いよ。


 ちっとも……うん……。


 気にしてないから……あはは……」



「続きを聞かせてくれ」



「いやべつに……大した話をする気は無かったんだけどね……。


 ただちょっと……友好の握手を……」



「そうか。よろしく」



 カイムは握手のため、ジュリエットに近付こうとした。



 すると二人の間に、ターシャと呼ばれたメイド服の少女が割って入った。



「このような無礼な男と


 握手をしてやる必要はありません」



「悪かったって」



 カイムがまた軽い調子で詫びると、次にジュリエットが口を開いた。



「謝るようなことじゃないよ。


 ちょっとしたすれ違いが起きた。


 それだけの事だからね。


 私にそういう態度を取った人は初めてだから……


 ひょっとビックリしたけど……。


 うん……少しビックリしただけさ……。


 だけど……キミは……


 ひょっとして、彼女のお友だちなのかな?」



「べつにまだ友だちってほどでも無いが……。


 名前も知らんしな」



「そう。良かった」



「良かった? 何が良かったって言うんだよ?」



「その……。


 彼女はちょっと、良くない噂が有る子だから。


 友誼を深める相手としては


 あまり適切では無いと思ってね」



「そうかよ」



 カイムは冷めた顔になると、自分の机まで歩いた。



 そして学生鞄から本を取り出すと、青銀髪の少女の方へと向かった。



「えっ……?」



 ジュリエットは再び声を漏らした。



 カイムはそれを無視し、青銀髪の少女に本を差し出した。



「返すよ」



「あ、ありがとうございます」



「……ま、まあ、人に物を返すのは大切だからね」



 ジュリエットは少し震えた声でそう言い、体裁を取り繕おうとした。



 だが……。



「それと、名前を聞いても良いか?」



 カイムは少女に対し、さらに一歩ふみこんだ。



「ルイーズです」



「ルイーズ。もし良かったら、


 今日の昼、一緒にどうだ?」



「ストレンジくん……!?」



 静かな教室内に、ジュリエットの疑問の声が響いた。





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