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103/104

その52の2



「カイムさん? あっ……」



 ルイーズがカイムの様子をうかがっていると、カイムはルイーズを引き剥がした。



 そして生徒会長の前へと歩いて行った。



「……何? どうしたの?」



 真剣な顔で向かってくるカイムに、生徒会長は疑問の声を向けた。



 そのとき。



 カイムの両手が、会長の肩に乗せられた。



「ひゃっ!?」



 力強く肩をつかまれ、会長は小さく悲鳴を上げた。



 カイムは真剣な表情のまま、会長にこう尋ねた。



「会長……あなたの名前は?」



「アメリア=ツェルナーだけど……?」



「ツェルナー先輩……。


 あなたには、生き別れた兄弟は居ませんか?」



「居ないわ」



「本当に?」



「ええ。弟は居るけど、


 特に生き別れてなんていないし、


 普通に実家で暮らしてるわ。


 ……それがどうかしたの?」



「弟さんは何歳ですか?」



「14歳だけど」



「14……。先輩のお母さんってどんな人ですか?」



「どんなって言われても……」



「写真とかを見せてもらえませんか?」



「どうして私が……」



「お願いします!」



 カイムはアメリアから手を離すと、勢い良く頭を下げた。



「……わかったわ。ちょっと待ってて」



 熱意に押されたのか、アメリアはカイムの願いを素直に聞き届けた。



 彼女は足早に寮に戻っていって、写真を持って帰って来た。



「この人が私のお母さんよ」



 カイムは写真を見た。



 そこには三人の人物が映っていた。



 アメリアらしき幼い黒髪の少女。



 銀髪の女性。



 そして銀髪の赤ん坊。



 銀髪の女性は椅子に座っていて、腕に赤ん坊を抱いていた。



 彼女が産んだ子供だろうか。



 女性の口元には、ほのかな笑みが見えた。



 カメラの持ち主に微笑んでいるのかもしれない。



 アメリアは椅子の隣に立っていて、やはりカメラに向かって笑みを浮かべていた。



 銀髪の女性の年齢はハタチくらい、アメリアは3歳くらいに見えた。



 写真が撮られた場所は屋内のようだ。



 アメリアの実家だろうか。



 アメリアの母親らしき女性は、夢で見る片腕の女性とは別人だった。



 幼いころのアメリアも、夢で見る少女とはそれほど似ていない。



「違う……」



 アメリアの一家は、カイムが追い求めていた人たちとは別人だ。



 カイムはそれを確認させられた。



 対するアメリアは、カイムの事情を知らない。



 ただ疑問の言葉を口にした。



「もう……。いったい何だって言うのよ?」



「先輩が、俺の生き別れの妹かと思ったんです」



「私の方が先輩なんだから、


 あなたの妹だなんてありえないと思うけど。


 私って、そんなにその子と似てるの?」



「いえ。そんなには」



「えっ……?


 あっ! 不純異性交遊をごまかすために


 ムチャクチャ言ってるのね!」



 夢を追いかけるカイムの言動は、アメリアからすれば、支離滅裂に見えたようだ。



 それでからかわれたのだと思い、むっとした表情を浮かべた。



「あははまさか。それでは失礼」



 ごまかすように笑い、カイムはアメリアに背を向けた。



「こら! 待ちなさーい!」



 カイムはアメリアから逃げた。



 アメリアの天職は、どうやら後衛職らしい。



 手加減をしたカイムの脚にも追いついてくることはできなかった。



 アメリアをまいたカイムは、男子寮へと入って行った。



 そして自室まで来ると、ぽつりとこう呟いた。



「違うのか……?」



「何がですか?」



 ルイーズがベッドの上から疑問の声を投げかけてきた。



「ルイーズさん?


 ここは談話室じゃないんだが?」



「談話室だったら大変です。


 ここは男子寮ですからね。


 ……それで、いったい何事なのですか?


 ツェルナー先輩に対して、


 何か思う所が有ったようですが」



「聞いてなかったか?


 妹かなって思ったんだよ」



「とっさに出たごまかしの言葉では無かったのですね」



「マジメな話だ。


 俺は孤児で、10年より前の記憶が無い。


 だけど夢に女の子が出てくるんだ。


 何度も何度も。


 ……泣いてた。


 俺はあの子にだいじょうぶだよって言ってやりたい。


 それに……もしあの子に会えれば、


 俺の記憶も元に戻るかもしれない」



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