その51の2
「もう。カイムってば、他人事みたいに」
「それじゃあこうか。やったー」
カイムはガッツポーズを見せた。
わざとらしい仕草だったが、ジュリエットはそれで満足したようだ。
「うん。やったね。
ここまで来られたのも
皆ががんばってくれたおかげだよ。
これからも力を合わせて進んで行こうね」
「ああ……」
カイムは何かを思い出したように、ちらりとルイーズを見た。
ルイーズと一瞬だけ目を合わせた後、カイムはジュリエットに視線を戻した。
「まだ行ける気がするが、どうする?」
「私もまだ余裕は有るけど、
欲張りすぎるのも良くないからね。
今日はこのへんにしておこうか」
「わかった」
ダンジョンから学校に戻り、そして放課後になった。
そこへルイーズが声をかけてきた。
「カイムさん。一緒に帰りましょう」
「わかった」
二人は猫車のりばへと足を向けた。
その途中で、ルイーズが口を開いた。
「話がまとまったので、公園まで来ていただけますか?」
ついに来たか。
そう思ったカイムの体が、ぴくりと緊張した。
「……わかった」
カイムはそう答えて、ルイーズの表情をうかがおうとした。
少しでも彼女の意図を読めないものか。
そう思っていたからだ。
だがいつの間にか、ルイーズは姿を消していた。
(公園って言ってたな。まあ、行くしかないか)
カイムは猫車に乗りこんで公園に向かった。
猫車から降りたカイムは、お馴染みのガゼボへと向かった。
そこに二つの人影が見えた。
「長官……!?」
人影の正体がわかると、カイムは驚きの声を漏らした。
人影の内の一つはルイーズで、もう一つはジョン=ゴールドダガーだった。
二人とも椅子に座っていた。
秘密情報部の最高責任者が、こんな所で何をやっているのか。
カイムは驚きを消せないままに、ガゼボの中へと入っていった。
カイムがジョンのすぐ近くまで来ると、ジョンが口を開いた。
「座ると良い。カイム」
「どうしてあなたがここに……?」
「何事にも格というものが存在する。
レオハルトさんほどの人を相手にするのに、
そこいらの下っ端では格不足ということだ。
だから私が来た」
ルイーズ=レオハルトという少女は、秘密情報部からもいちもく置かれる存在のようだ。
それを知ったカイムの内から、疑問が湧き出してきた。
「長官。少し二人で話せませんか?」
「ああ。良いかな? レオハルトさん」
「どうぞ」
カイムとジョンはルイーズを残し、ガゼボから離れた。
そしてルイーズからじゅうぶんに距離を取ったところで、カイムが口を開いた。
「……長官は、ルイーズっていう重要人物が
俺のクラスに居るっていうことをあらかじめ知っていましたね?
なのに黙っていた」
「そうだな」
「ルイーズはとんでもない有名人らしいですね?
だというのに、
エージェントであるこの俺が、
彼女の逸話について何一つ知らなかった。
情報統制でもされていなければこうはなりません。
あなたは何年も前から、
俺がエピックセブンになるよりも前から、
ずっとルイーズのことを俺に隠していた。
そして何の情報も与えずに、
この現場に放り出した。
どうしてですか?」
「……きみにはレオハルトさんと
対等な友人になって欲しい。
それが占い師の望みだったからだ」
「占い師の? どういうことですか?」
「レオハルトさんは、パワーを持っている。
一国の軍事力すら凌駕する、
圧倒的なパワーを。
もし彼女の心が闇に落ちれば、
それだけで世界は窮地へと陥るだろう。
占い師はそれを危惧していた。
そして、レオハルトさんは孤独な存在だった。
愛する者が居なければ、
人はたやすく闇へと落ちる。
レオハルトさんには心の支えとなる存在が必要だ。
占い師はそう考えた。
何年も前に、占い師はきみを選んだ。
詳しい理由はわからない。
エピックワン、ジェームズ=ハントに並ぶきみの戦力を見込んでのことか。
その美貌に異性としての価値を見出したのか。
それとも、もっと深い意図が有るのか。
きみが選ばれたその時から、
私はきみに対して、レオハルトさんの情報を隠匿してきた。
きみに役割を悟られれば、
きみとレオハルトさんが築く関係が
偽物になってしまう恐れが有ったからだ。
さて、きみはレオハルトさんと良き友人になれたかな?」
「そうですね。
それでも最低限の訓練くらいは
やらせて欲しかったですがね。
失敗続きで自信を失くしましたよ」