その51の1「ルイーズと友だち」
いつものように身支度を整えて、カイムは学校に向かった。
カイムが自分の席で静かにしていると、ルイーズが教室に入って来た。
すると。
「おはよう。レオハルトさん」
「おはよー」
クラスの女子たちが、ルイーズに声をかけた。
今までには無かったことだ。
「あっ、おはようございます」
ルイーズは驚いた様子で、ぺこりと頭を下げた。
そして自分の席へと歩き、腰を下ろした。
その朝、カイムとルイーズの間で会話は無かった。
やがてホームルームの時間になった。
先生が入ってきても、生徒たちの席が一つだけ空いていた。
担任のテリー=チッピングが口を開いた。
「今日はみなさんに大切なお知らせが有ります。
今まで皆さんと共に
勉学に励んでいた
トマ=テーヌくんですが、
一身上の都合で
故郷へと帰ることになりました」
「えっ……! 聞いてないですよ……!?」
トマと仲良かった男子、ロドルフが声を上げた。
「はい。前から予定されていたことでは無く、
突然に事情が変わったという話です。
ですからぼくも詳しい事情に関しては
説明することができません」
「事情って、
おとといまでは普通だったのに……。
昨日なにか……昨日……?」
困惑したロドルフは、視線をさまよわせた。
やがてロドルフの視線は、ルイーズへと吸いつけられた。
「昨日って……あいつがレオハルトさんと
デートするって言ってた日じゃ……」
ロドルフがそう言うと、周囲がざわめきだした。
ロドルフの近くに居た男子が、こう呟いた。
「まさかトマが消えたのは……レオハルトさんが……」
「…………」
ルイーズは反論しなかった。
男子の推論の半分は事実だ。
トマが居なくなった原因は、ルイーズとの争いが原因。
そのことに間違いは無い。
一方で、少年が知らない事実も有る。
トマ=テーヌは、ソフィアの使徒が抱えるスパイだった。
そしてトマの方から、ルイーズを害そうと襲いかかって来た。
さらにトマを連れ去ったのはハーストの工作員であり、ルイーズの指図ではない。
すべての真実を話そうと思えば、カイムの正体も明らかにしなくてはならない。
他に上手い弁解も思いつかないのか、ルイーズは何も言わなかった。
言い逃れせずに、畏怖の視線を受け止めていた。
すると。
「ちょっと男子! やめなよ!
レオハルトさんがかわいそうでしょ!」
「証拠も無いのに決め付けるなんて酷いよ」
「男子サイテー!」
女子たちが、疑惑を口にした男子に非難を向けた。
「う……。ごめん。レオハルトさん」
女子の圧力に押された少年が、謝罪の言葉を口にした。
「いえ」
ルイーズはそう言った後、自分をかばってくれた女子たちに言葉をかけた。
「あの、ありがとうございます」
ルイーズ=レオハルトという少女に、クラスメイトの友人ができた。
自分がこの学校に来たことは、まったくの無駄ではなかったのかもしれない。
そう思ったカイムは、仄かに笑みを浮かべた。
……。
その翌日。
カイムたちはダンジョン実習のため、ダンジョンを訪れていた。
その日のジュリエットたちは、気合に漲っていた。
到達階層の更新を目指していたためだ。
その気合は、カゲトラにも伝わっていたようだ。
彼女は勇猛果敢に、眼前の魔獣へと向かって行った。
「みゃっ!」
ねこアーマーを身につけたカゲトラが、ファイアフリルドリザードを吹っ飛ばした。
痛烈な一撃により魔獣は絶命し、地面に魔石が落ちた。
「グッジョブカゲトラさん」
ジュリエットがカゲトラを褒めた。
するとカゲトラは、まんざらでもない笑みを浮かべた。
「みゃ」
魔獣を退けた一行は、先へと進んだ。
すると。
「階段が有るぞ」
先頭を歩いていたドスがそう言った。
次にロジャーが口を開いた。
「ってことは……」
「階層更新だね」
ジュリエットがそう言った。
カイムはどこか距離感の有る口調でこう言った。
「ええと……おめでとさん?」