ルチ村のサラ
異世界に転生して1時間足らず
俺の人生は幕を閉じようとしている。
今まで何人の転生者がいたかは謎だが、この記録は最速な方かもしれない。
目の前には短剣、手斧を持った野盗が3人
小人ならまだしも、3人とも俺より大きい。
腕の太さは、俺の腰幅くらいあるんじゃないだろうか?
「おい!なんだテメェは!!」
「変な格好しやがって、何者だ!あーん?」
変な格好と獣の腰布を巻いている野盗に言われた。
元々、お洒落に興味はないが、この野盗とは仲良くなれなさそうだ。
「おい!聞いてんのか!このヤロ!」
「楽に死ねると思うなよ?」
どうやら生かして帰してくれないらしい。
それならせめて、この女性が逃げれる機会だけでも作らないと。
「あ、いえ、あの…道に迷ってしまって…ここってどこですかねぇ〜て、あはは…は。」
「「「ふざけてんのか!!この野郎!!」」」
怒らせてしまった。
野盗共が一斉に襲いかかってきた。
目を閉じ、死を覚悟した。
「………?」
一向に襲いかかってくる気配がない。
片目を開け、様子をみると
3人が一斉に飛びかかってくる様子が目に飛び込んでくる。
何か変だ。
時間の流れがスローになっていた。
各々、振り上げた武器を力の限り振り下ろしてくるが、
その武器が一向に届いてくる様子はない。
とりあえず、その場から離れてみる事にした。
その場から離れると同時に武器が振り下ろされていた。
野盗共は状況が理解できず、目を大きく開き、唖然としていた。
「え?おい…どういうことだ」
「くそっ、ふざけやがって!」
「ちょこまかしやがって、おい!囲め!!」
3人の野盗共に囲まれた状態になった。
3人上下バラバラに攻撃してきた。
するとまた、時間の流れがスロー再生の状態になった。
まるで好きに避けてくださいと言わんばかりの状態だったので、丁寧に一つ一つ避ける事にした。
「おい、コイツ!くそっ、当たらねぇ!!」
「なんだ、ハァハァ どうなってやがる!?」
大振りの攻撃を何度も繰り返してきたのか、
野盗共は肩で息をしはじめた。
このままスタミナ切れで倒れてくれないだろうか。
それとも攻撃をした方がいいのかな?
体格が違う為、俺の攻撃なんか効きはしないだろう。
しかし、状況も打破できない為、攻撃を試みる事にした。
野盗の膝裏にローキック
「ぐっ!」
膝を崩した野盗の顔が丁度良い位置に降りてきた。
顎をこするようにフックをかます。
拳と顎の接触に逆らわず、野盗の顔が振り子の様に横に傾いた。
傾いてから一呼吸置いて、野盗の目がぐりんと白目になり、野盗はその場に倒れた。
「「!?」」
間髪入れず、二人目の野盗のボディに正拳突きを叩き込む。
「ぐあっ…!!」
二人目の野党はくの字に折れ曲がり、顔から崩れおちていった。
「な、なんなんだテメェは?」
畏怖の表情で短剣を向けてくる3人目の野盗。
距離を置かれ、身構えられた為、近づくのをやめた。
足元に落ちていた拳大の石をとり、野盗の顔に向け、投げた。
ひゅんと空気を切り裂く音がなった瞬間、鈍い音がした。
石は3人目の野盗の顔にクリーンヒットし、野盗は後ろに倒れていった。
あっという間の出来事で何が起きたのか、攻撃を繰り出した自分でも理解するのに少し時間がかかった。
「えぇ…何コレ?」
これも能力なのだろうか。
チートが過ぎる能力に愕然となった。
女性は大丈夫だろうか。
野盗に襲われたあげく、得体のしれない男が現れたのだから、怖がってるかもしれない。
恐る恐る女性の方に目を向ける。
女性は呆然としていた。
あ、どうしよう…
声をかけるべきか、立ち去るべきか。
再度、女性に視線を動かした。
まだ呆然としている。
とりあえず、女性の危機は立ち去った。
俺がここにいる理由がなく、また不用意に人と接する事は賢明ではないのかもしれない。
立ち去ろうとし、女性に背中を向けた瞬間。
「待ってください!」
背中から呼び止める声が聞こえてきた。
立ち止まり、女性の方に振り返る。
「あ、あの…助けてくれて ありがとうございました!!」
言葉が通じる。
思えば野盗共の言葉も理解できてたが、それどころじゃなかった為、そんなに意識してなかった。
とりあえず、女性の言葉から、この世界でコミュニケーションが取れる事が判明した。
「あ、いえ…大変でしたね。その…大丈夫ですか?」
「はい。おかげさまで私は無事です!」
「良かった。」
女性が無事である事と、助けられた達成感で自然と笑みがでた。
「…っ!」
女性の頬が薄いピンク色に色づいていく。
「あ、ごめんなさい。今の今で自分がいたら怖いですよね…ごめんなさい。」
「いえ!だ、大丈夫です!私、サラです!」
「サラ?」
「はい。ルチ村のサラと言います!」
「ルチ村…サラ…」
「…あの、あなた様のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「す、杉内 心也と、も、申します。」
「スギウチ シンヤ…」
名乗った瞬間、サラと名乗る女性の動きが止まったような気がした。
「あ、あの?」
「あ!ごめんなさい、この国では聞きなれない名前だったので、どこの国なのだろうと…ごめんなさい。旅の方…ですか?」
「……」
記憶がない上に、転生者である俺は自分の身上を語れないでいた。
言ったところで理解されないと思うし、下手したらトラブルに巻き込まれてしまう可能性もある。
ここはどんな対応が適切なのだろう。
「あの?」
返答に困った俺にサラは心配するように顔を見上げてきた。
「ごめんなさい。不信がられるかもしれませんが、自分には記憶がなく、気が付いたらこの森にいたのです。」
「え?」
「森を彷徨ってるうち、サラさんの悲鳴が聞こえ、無我夢中に立ち回ってた。…すみません。コレしか説明できなく。またそれを証明する術を知りません。」
「そうだったのですね。そんな大変な状況の中で危険を冒してまで助けてくださったのですね。」
「あ、いえ…。」
「シンヤさん、これから行く宛はあるのですか?」
「とりあえず森を抜けて、そこからは身の振り方を考えてみようかと思ってます。」
「…良かったら、今日はルチ村に来ませんか?」
「いえいえ、身分を証明できない身ですし、得体のしれない人間が立ち寄ってしまったら、村の方々に不安感を与えてしまいますので…」
「大丈夫です!シンヤさんは私の命の恩人です!得体の知れない人なんかではありません!!」
「でも…」
「それにもう日も暮れてきます。何もない村ですが、せめて一晩だけでも休んで行ってください。」
そう言われ、ルチ村へと足を運ぶ事にした。