少女と野盗
裁定の間で意識が途切れて、どのくらいの経ったのだろう。
気がつくと木々に囲まれた場所で立ったままの状態だった。
木、土、草の匂いが強い。
どうやら森のようだ。
熊や猪、狼などの野生動物に襲われたらと思うと少しゾッとした。
視点が高い。
直立している事からどうやら赤ん坊ではないようだ。
荷物らしきものはなく、それどころか着衣を身につけていない。
文字通り、裸一貫のスタートか。
風が心地よく、それは冬の気候でない事を感じた。
服がほしい。
頭の中で、そう思うと目の前にハンガーラックが現れた。
ハンガーラックには、Tシャツ、パンツ、ソックスなどがかかっており、
驚いたのはその量だった。100ではきかない数の衣服が左右に広がっていた。
元々、服に無頓着というか、そこら辺のセンスが皆無な為、ろくに服を選ばず、
目の前にあったTシャツ、ジーンズ、スニーカーを手に取り身につけた。
サイズは大き過ぎず、小さくもなく、良い感じにフィットしている。
靴擦れの心配などはしなくても良さそうだ。
頭の中で持ち手の付いた手鏡をイメージした。
すると右手に手鏡が出現した。急な事で驚き、鏡を落としそうになったが、
手のひらに吸い付くように落ちてきたので、落として割るような事もなかった。
恐る恐る鏡を覗き込んでみる。
鏡には黒髪で前髪を垂らした、若そうな青年が写っていた。
見たところ、17、18といったところだろう。
記憶がない為、これが自分の顔なのかもわからない。
そういえば、この服とか鏡ってどうやってしまうのだろう。
創造する力と言っていたが、消す事はできるのだろうか?
頭の中で物を消すイメージをしてみた。
すると音もなく、まるでそこには何もなかったかのようにパッと消えた。
さて、ここはどこだろう?さすがにここに留まるわけにもいかない。
とりあえず、周辺に何があるか、確かめる事にした。
森を歩く事、数分
「きゃーーーっ!」
女性の悲鳴が聞こえてきた。
悲鳴の聞こえたきた方角から、そう遠くはなさそうだ。
悲鳴の様子から、それがトラブルである事は容易に想像できる。
とりあえず状況を把握するべく、悲鳴の方へと移動した。
近づくにつれ、人の気配がしてきた為、
少し離れた場所で息を潜め、様子を見る事にした。
そこには悲鳴の主と思わしき女性と大柄の男が3人いた。
大柄の男は獣の皮らしきものを腰に巻いており、手にはそれぞれ短剣や手斧らしきものを持っている。
狩人ではなく、野盗みたいな風貌だ。
一方の女性は、布のワンピースを身に纏った格好だった。
異国感が漂った男女から、ここが自分の育ってきた世界ではない事が一目で理解できた。
前世の記憶がないので、定かではないが。
多分、俺は格闘技を習った事もなければ、護身術もしらない。
喧嘩をした事があるのかも謎だ。
そして、野盗に襲われてる女性を助けた経験もない。
多分、出てったところで大して役に立てず、瞬殺されるに違いない。
ここは見なかった事にして、立ち去るのが正解だろう。
ごめんなさい。見ず知らずのお姉さん。
と、立ち去ろうとした時、女性の悲鳴が再度聞こえてきた。
「お願い!!やめて!!」
女性の顔は苦悶に満ちており、
野盗共が女性の衣服に手をかけ、今まさに最悪な事を行おうとしていた。
泣きじゃくる女性の悲痛な叫びに耐えきれなくなる。
「あのー!」
気がつくと声をあげ、野盗共の後ろに立っている自分がそこにいた。
「あぁーん?!何だテメェは?」
あっ、死んだコレ。。。