異世界へ転生体験!
「…自分が何で死んだか…えっと…」
「思い出せないんじゃないかな?そう君は自分の死んだ時の事を思い出したくとも、思い出せないはずさ。」
光の球体にそう言われる。
少しムキになって思い出そうと試みてみたが、
どれだけ過去の記憶を辿っても、死んだ理由は思い出せなかった。
「え?…なんで…」
「それは、僕が一時的に思い出せないように魂を保護してるからさ。」
「保護…なんでそんな事を?」
死んだら、死んだ時の記憶を思い出さないように何らかしらの処方をする。
そういうルールでもあるのだろうか?
保護、記憶を制御する意味がわからなかった。
「ここは様々な理由により、人生を終え魂が戻ってくる場所。頑張って人生を全うした魂は個々色々な経験を得て戻ってくる。 戻ってきた魂は次の人生に旅立つ前、次の人生はこうでありたい。ここを伸ばしたい。などの目的を定めて旅立っていくのさ。余程の理由がない限りは魂に関与しない。」
「じゃ…なぜ?」
「でも、稀に例外もあり、目を逸らしたくなるような不憫な人生を歩んできた魂もある。」
「自分の死んだ理由が、目を逸らしたくなるようなものだったという事ですか?」
「それなら死んだ時の記憶だけを保護すれば済む話だから比較的楽な方だけどね。じゃ、追加で質問しよう。君は自分の人生をどのくらい覚えている?」
「え?そりゃ、普通に学校……えっと…あれ?学校に…通って…」
死んだ時の記憶どころか、それ以前の記憶も思い出せない。
生まれた時の事、家族の事、学生生活、友人、全ての交友関係の事。
自分という人間がどのように生きてきたのか、解らない。
無理やり搾り出しながら、思い出そうとした時、
体の底から悪寒が発生し、体全体が締め付けられた不快感を味わった。
その不快感は思い出せないから、思い出してはいけないにシフトチェンジされていく感覚となった。
「人生を全うしていく中で、大なり小なり嫌な事があったとしてもトータルでみれば些事だった。次に活かせればいい!と思えるのが人生というものさ。だけど稀に、人生の記憶を何一つ辿れなくなるほど、深い傷を負ってしまう魂がある。傷を負った魂は生きることに恐怖を覚え、転生をも拒絶してしまう。」
「それが…自分が転生をしたくない理由。」
「転生を拒絶した魂は、その存在を維持する事ができなくなってしまい、やがて無に帰さなけれならない。バランサーはそういった魂を消滅させないように、深く傷を負った魂を保護する役目があるのさ。」
「俺は、いったい何が原因で死んだんですか?何で保護されなきゃいけない、いや、記憶を…」
色々と知りたい事があるが、
理解に追いついていない自分がいた。
「人生とは、それは一人で生きていくにはとても困難で、誰かの助け、支えなどがあって成り立つ物。それは他の魂との出会いでもあり、交流でもあり、互いに切磋琢磨できる環境でもある。人生を拒絶するほど、他者との関わりを絶ちたい。それを思わせる傷、トラウマを受けた状態だった。」
「……だから保護をした…」
「だけど、傷は深かったせいで、こちらの想定を上回るほど拒絶反応が出てしまった事は想定外だった。申し訳なかった。」
「いえ、保護してもらったのに…ちゃんと守られなくて…ごめんなさい。」
「こんな状況でも、他者を思いやるなんて…君は本当…」
「え?」
「いや、何でもない。」
一瞬、何を言いかけたのかわからなかったけど、
言い淀んでるくらいだから深く聞かない方がいいだろう。
「それで俺はこれからどうなるんです?」
「うん。本来であれば転生までの休息中、振り返りを行いながら次の人生の目標などを立ててもらうんだけど…今回はイレギュラーな為、それは今回、当てはまらない。」
「まぁ…振り返れる記憶がないですからね。」
「うん。このままの状態になると魂の消滅、無に帰る事になる。なので一つ提案なんだけど、「転生体験」してみる気はないかい?」
「転生体験?」
「そう!転生体験!本来、休息するはずだった期間を利用して、君は転生するんだ!記憶の上書きをして戻って来れば、次の人生の目的を決められる。すなわち無に帰る事なく転生する事ができる。」
「えっと、それは…?」
「休息期間の1年間、君は異世界で転生の擬似体験をしてくるんだ。そこで次の人生の糧になるような体験をする事ができれば、拒絶する事なく、転生できる!」
失われた記憶の代わりに別の記憶を作り、転生を拒絶できない魂にする。
転生ができないのに、転生をしてくる。
言葉の意味が解らない。1年という短さで前の人生の傷、トラウマを払拭できるものだろうか?
「でも、転生期間って1年なんですよね?赤ん坊が1年間転生したところで、1歳の人生が満足のいく人生が達成できるとは思わないんですが…」
「これは仮の転生で、しかも擬似体験だからね。そこはズルしておくから安心して大丈夫!」
「ズルって…裁定の間の管理者であるバランサーなんですよね!?そんな事して大丈夫なんですか?」
「大丈夫!これは本来の正当な転生じゃない為、理や秩序には何にも影響しないさ!…多分!」
「た、多分!?」
「リスクでいえば、魂一つの消滅の方がリスクが高くてね、こちらとしてもそっちの方が助かるんだよ。君は消滅しなくていい、こちらもリスク回避できる。Win-Winってやつさ!傷を負ったトラウマ状態の君に、ただ転生体験してくれじゃ申し訳ないからね、細やかだけど、オプションも付けてあげよう!」
「オプション?」
「転生体験中の1年間、ここ裁定の間の能力を使用できるようにしてあげるよ。」
「裁定の間の能力?」
「ここ裁定の間は思念世界。思念で想像したものは全て具現化できる。簡単にいうと『創造』の能力だね。君が想像したものは何だって形になる。食べ物、建築物、雨や雷などの天候、そして人間を含む、生物なんかもも作り出す事ができる。言わば神の能力といえよう。」
「え?なにそのチート能力…怖い」
与えられた能力がチート過ぎて怖かった。
その能力は先ほど、球体が作り出した天国と地獄と同じものだろう。
使い方を間違えたら何か色々と問題がある気がする。
「与えられた1年間をどう過ごすかは、君の自由だ。好きな事をやってみるといいさ。」
どこか強引に押し切られてる気がするが、
1年を転生してくれば、問題が解決するのであれば従うしかない。
能力を上手く使えば、一人でも上手くやっていけるだろう。
「わかりました。1年間転生を体験してくれば良いんですね?その変わり転生先でどんな風に過ごしても文句は言わないでくださいね?」
「もちろん!約束するとも!じゃ、そうと決まれば時間も勿体無いし、始めようか!君が今から行くところは君がいた時代に比べても、文明レベルが低い世界だ。その異世界で1年間、転生体験してくるといい。その転生が、君にとって幸があらん事を!」
視界が徐々に暗くなり始めた。
「(あ…能力の使い方とか…いや、結局、自分…は何で死んだ…)」
などと考えてる途中で、プツっとテレビの電源が落ちたように意識が途絶えた。
結局、自分は何で死んだのか。
そもそも何者なのかもわからなかった。