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そういうわけで、腐っても記念すべき僕の初任務の舞台は悪い意味で名の知れていること以外は至って普通の辺鄙な高校だそうだ。
そこに僕は転校生として入り込み、いわゆるダメ人間を演じて生活する。
あとはさっき説明した通りだ。
それでも収まらない場合は僕が標的に成り代わる。
兎に角騒ぎを収められればそれでいいとのこと。
気がつくと高校行きの電車に乗るホームに着いていた。
階段を降り端により、電車が来るのは何番ホームか、電車の発車時刻は、とプログラミングされた情報を確認していた丁度その時・・・
「キャー」
悲鳴が聞こえ後ろを振り返る。
階段を下っていた老女が足を踏み外したようだ。
階段下にいる男性が咄嗟に受け止めようとするも、その衝撃でバランスを崩し僕の方に倒れ込もうとしてくる。
そう状況を把握した時にはもう遅かった。
さらに、運の悪い事に階段の端にいた僕は、後ろから人二人分の体重を掛けられ前につんのめる。
そして、その目先に見えたのは
―線路だ。
まずい・・・。
この高さを頭から落ちた位では流石のヒューマノイド、致命傷にはならないだろう。
まずいのは右から来る電車だ。
駅構内なのにも関わらずあの速度で走っているのを見るに特急だろう。
あれにぶつかられたら待っているのは機能停止。即ち、
「死」だ。
絶体絶命。
せめて重要な部位だけは守ろうと防御システムを作動させた時の事だった。
背中から押されたことで、後ろに伸びた僕の腕を何かが掴んだ。
その何かを確認するべく自分の腕に目を向けると、それを色白のほっそりとしたきれいな手が掴んでいるのが見えた。
さらにその腕の先を見るとまたもや色白の今度は可愛らしい少女の顔があった。
少女はホームの柱に左手を掛け、それを中心に遠心力を使い、丁度サイドスローの形で電車とは反対の方向に、ホームから落ちかけている僕を見た目からは想像つかない力でひきもどした。
その反動で放り投げられた僕の体は見事肩からホームに着陸。
怪我はなかったし、それより何より電車との衝突を免れた。
良かった・・・。
安堵と動揺で頭が一杯になり、明後日の方を向いていると、
「本当すいません。咄嗟とはいえ乱暴にしすぎたー・・・」
言葉の内容からして先程の少女のものだろう。
「怪我はない?」
後ろを振り返るとやっぱりそこには彼女がいた。
会話に入ることを予知して僕の中のプログラムが働く。
「ぁ、うん」
僕は自信なさげにそう呟く。
「あ、その制服。高校同じですね。顔に見覚えないってコトはもしかして転校生?」
「あぁ」
「じゃあ、これからよろしく」
そう言って少女は僕の手を取りそれを引き上げ、座っている僕を立たせると手を振りながら去っていった。
僕を轢きかけた電車はいつの間にかいなくなっていた。
そういえば僕にぶつかってきた老女と男性も見当たらない。