第2話 狂育学に素養のある同級生
狐狗狸先生からの話が終わって、オリエンテーションは同級生同士の交流の時間に移った。
さっきまでは教室内にまばらに着席していたみんなが、1つのテーブルに顔を突き合わせて自己紹介を始める。
なんとなく、誰から話し始めるか牽制し合うような視線の交錯を感じたので、こういう時は、まず私から。
「えーっと、さっき狐狗狸先生から呼ばれてましたけど、改めて。私は狐音朱都咲ですっ。彼氏の梟くんは今高校3年生で、あと2ヶ月弱で誕生日なので、その日にお婿さんに来てもらう予定です! 機械の扱いには自信があります! 得意なのはいろんな器具を使った拷問で心を折って、私以外の何もかもから興味を失せさせることです! みんないい子そうなので仲良くしたいと思ってます! ただ、私の梟くんに何かしようものなら即消滅させるので、その前提でよろしくおねがいします! ......あっ、そうだ、名前。朱都咲とか、アズとかって呼んでもらえると嬉しいです!」
パチパチパチ、とまばらに拍手があがる。
うん、無視したり引いたりしないなんて、やっぱりみんな良い子たちっぽいね。
我ながら良い自己紹介をしたもんだっ。
「えっと、次の人に移る前に、質問タイムしとく?」
一瞬だけ沈黙があって、「次どうしようか?」って感じの空気が流れてたから、私が続けるか提案してみる。
「や、アズちゃんの話を掘り下げる前に皆それぞれが最低限の紹介しといた方がお話が盛り上がるんじゃないかな?」
「あぁ、確かにそうかもね! さすが海夏ちゃん、良いこと言うね!」
「いえいえ、それほどでも〜」
私に反対意見を出してきた彼女は、赤根海夏ちゃん。
肩まで伸ばしたキレイな黒の髪をハーフアップにしてた可愛らしい子。
身長も胸囲も私とかなり近くて、いろいろ親近感も湧いたんだよね。
実は私とは高校2年の頃にクラスメイトになって以来、とっても仲のいい友達なんだ♪
高校の頃は、梟くんにいろんな羽虫がよってきたりしたけど、海夏ちゃんには海夏ちゃんの大事な人がいたから、私が心配する必要がなくて、安心して仲良く出来たんだよね。
まさか大学まで一緒になるとは思ってなかったけど、彼女が一緒だといろいろ心強いねっ。
「じゃあ、次は海夏ちゃんが自己紹介ってことでいいかな?」
海夏ちゃんと他の3人に確認するように尋ねてみると、みんなまだぎこちないながらも穏やかな表情で頷いて返してくれる。
「ほいっ、じゃあ、海夏ちゃん、よろしく!」
「はぁい」
海夏ちゃんは、いつものように緩い声で返事をしてから自己紹介を始めた。
「ウチは赤根海夏。海夏とかって呼んでもらおうかな? さっきのやり取りみてわかってもらえたかもしれないけど、アズちゃんとは高校が一緒で、元から友達やらせてもらってます。彼氏はアズちゃんのところと一緒で私の1つ年下の高校3年生で、結婚の話は......まだしてないけど、近いうちにはすると思う、かな。あんまりにも可愛いから、いっぱいお金使ってデロデロに甘やかして、ウチなしじゃ生きていけないようにしてます。お金儲けて何不自由無いように囲ってあげるワザには一家言持ってます。私も、彼氏にちょっかい出されたらぶっ転がすと思うけど、そうじゃない間は仲良くしてね」
パチパチパチパチパチ。
ちょっ、私のときより拍手大きくない!?
......まぁいっか。海夏ちゃんのも良い自己紹介だったもんねっ!
「えーっと、次は......「じゃあ時計回りにあたしが行こうかな」......よろしく!」
声を上げたのは海夏ちゃんの左隣に座っていた、金髪ロングの巻き髪に緑の瞳がはめ込まれた切れ長の目の女の子。
「あたしは継鬼綺凛那。綺凛那でいいよ。あたしの場合は、夫の現は同級生で去年の12月に入籍済み。お婿に来てもらいました。特技は情報機器を使ったストーキングで、盗聴盗撮ソーシャルエンジニアリングなんでも一通りできる。夫には昔一回だけ間違って振られちゃったけど、あたしの本気を見せたら簡単に絆されてくれた。現にちょっかい出したら消す。でもとりあえずは仲良くしたい。よろしく」
「「「おぉ〜」」」
パチパチパチパチパチ。
歓声混じりに拍手が広がる。
いいなぁ〜、綺凛那ちゃんはもうお婿さんに来てもらってるんだぁ。
でも私だって後2ヶ月の我慢なんだからっ。
「次は私ですかね?」
順番通りに声を発したのは黒のロングに銀のインナーカラーを入れたキレイな女の子。
「私は鬼門紅雨です。私のことは好きに呼んでいただいて構いません。私の彼のみーくんは2つ年下だから、みなさんみたいにすぐに入籍はできないけど、これまで十分にみーくんを周囲から孤立させて私に依存するようにしてあげて、結婚できるようになったらすぐに入籍することを誓ってくれてるから、あとは時間の問題ですね。得意なことは......強いて言えば、周囲の人の心とか認識を操作すること、でしょうか? 私のみーくんはすぐに女の子のことを視界に入れてしまう悪癖がありますので、皆さんは決して彼の視界に入らないように注意してください。下手なことをしでかすようであれば、一欠片の塵も残らないように消し去ります。私も仲良くしたいです。よろしくおねがいします」
パチパチパチパチパチ。
「あー、他の女の子を視界に入れちゃう癖、わかるな〜」
「わかる。ウチのもすぐ見るんだよね」
「わかるわかる」
「うん、私もすっごくわかる! あれ、ホントやめさせたいよね!」
「あ、やはりみなさんも似た悩みを抱えていらっしゃるんですね......。よかった」
「だね〜。いやぁ、さっそくこんな良い話ができるなんて、嬉しぃなぁ〜♪」
まだまだ自己紹介の途中なのにみんな、彼氏/夫あるあるに共感の声が沢山あがる。
「じゃあ最後は私だねっ。私は渕簾紺と言います! 『紺ちゃん』って呼び方は、大好きな1つ年下のお婿っぴの淡くん専用だから、それ以外の呼び方ならなんでもいいよ! 特技かはわからないけど、お婿っぴのことを私の好きな色に染めるのが得意です! ダーリンに手を出したら生まれてきたことを後悔させます! あ、あと妊娠4ヶ月です! そのうちつわりとか出ちゃうかもしれないけど、よろしくおねがいします!」
「「「「え〜〜〜〜!!!! もう赤ちゃんいるの〜〜〜〜〜!?!?!?!? 良いなぁぁぁ!!!!!」」」」
「えへへ〜、ブイブイっ! お婿っぴったら、私との子作り、ずっ〜と拒否してたんだけど、なんかいろいろ誤解とかあったみたいで、そのあたり解消したらもう滅茶苦茶に求めてくれてね〜。すぐにデキちゃった♡」
自己紹介、最後の1人は、すでにお腹に生命を宿しているという女の子。
青みがかった黒のロングをポニーテールにしていて、その先をふんわりカールさせてて可愛い。
すっごく優しくて虫も殺せなそうな見た目だけど、多分この子は策士系なんだろうなぁ。
海夏ちゃんとかは多少策士感もあるけど、基本的には天然って感じなのに対して、この子はいろいろ意図的に工作するタイプだと思う。
普段ならこういう子には注意しとかないと、梟くんにちょっかいかけられたら厄介な人の代表みたいなタイプなんだけど............まぁ多分大丈夫。
ってか..................血涙が出るくらい羨ましいよぉ!!!!!!
私も梟くんの赤ちゃん早く産みたい!
はぁ............。
ともかく、この自己紹介でみんなの為人がなんとなくわかったけど..............................。
みんな良い子たちばっかりでよかったっ♪