佐藤さんは、おおよそ砂糖が好きである。
ここに1つの研究結果がある。
「佐藤」という名を持つ者は、おおよそ砂糖が好きであるというデータである。
全国の佐藤さんから話を聞いたところ、確かに砂糖が…甘いものが好きであるというデータを入手した。
たまたま砂糖が好きな佐藤さんに出会っただけではないのか、そのような疑問に答えさせていただく。
このデータは、最先端のサンプリングの公式に乗っ取りきちんとデータとして採ったものである。
サンプリング数を決める数式に、全国の佐藤さんの人数205万5,000人をあてはめた。
およそ1000人の調査をすれば、誤差3%で、分析できるとでた。
私は、1000人の佐藤さんにアンケートを取った。
すると、驚くことに…100%、佐藤さんが砂糖を好むという結果が出たのだ。
そう、1000人のうち、全員が砂糖を好んでいたのである。
つまり、砂糖という名前を持つ者は、おおよそ砂糖が好きであるという事が証明された。
名前の持つ、数奇な運命を知り、心が躍った。
私は砂糖が好きではない。
これはおそらく、佐藤という名前を持たないからに違いない。
佐藤という名前に生まれていれば、乙女が喜ぶようなケーキを好むこともあっただろうに。
……残念で、ならない。
……残念でならないと、思っていたのだ。
この私の学説を発表した時、一人の研究者が訪ねてきた。
名を、佐藤(某)と言った。
私は、佐藤と砂糖の関係性について語った。
研究について、説明をした。
研究について、論議を重ねた。
研究について、激しく討論した。
研究について、論争を繰り広げた。
研究者は、砂糖の魅力について語った。
砂糖について、説明した。
砂糖について、詳しく説明した。
砂糖について、魅力を徹底的に説明した。
砂糖について、信じられないほど情熱をかけて説明した。
研究者の熱意に…飲み込まれてしまった私は、佐藤という名前になった。
おかしなものだ、佐藤という名前になったら、砂糖が好きになった。
おかしなものだ、佐藤という名前になったら、砂糖の甘さが好きになった。
おかしなものだ、佐藤という名前の人を好きになったら、砂糖が好きになったのだ。
「佐藤」という名を持つ者は、すべからく砂糖が好きであるというデータは、正しかったのだ。
佐藤という名前になった私が、自身でそれを証明した。
佐藤になって、砂糖が好きになった私は、毎日甘いものを食べた。
砂糖は、甘くておいしい。
砂糖は、甘くておいしくて、毎日食べた。
砂糖は、甘くておいしくて、毎日食べていたら、体が膨張した。
砂糖は甘いが、佐藤は苦い事を言うようになった。
砂糖は甘いが、佐藤は甘い言葉を言わなくなった。
おかしなものだ、佐藤という名前の人を嫌いになったら、砂糖が嫌いになったのだ。
「佐藤」という名を持つ者は、すべからく砂糖が好きであるというデータは、正しかったのだ。
佐藤という名前ではなくなった私が、自身でそれを証明した。
私は佐藤ではない、だから砂糖が好きでなくてもおかしくはない。
「佐藤」という名を持つ者は、おおよそ砂糖が好きである、それだけが、真実なのである。