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生命の道程~Path of Life~  作者: トシオン
3/10

第3話:田島トオルの恋愛事情

初出勤から3日後、まだ一度も顔を合わせていない一番街の女性職員と対面した。


彼女は、3日前の夜勤入りから翌日の夜勤明けを経て昨日は休みとなっており、今日は日勤での勤務となっていた。


「初めまして。3日前からお世話になっています。田島と申します。よろしくお願いします!」


僕は、意識的に大きめの声を出し、女性職員に向かって挨拶をした。


「あっ!佐藤と申します。よろしくお願いします。」


彼女は、少し小さめの声だが落ち着いた面持ちで挨拶を返してくれた。


佐藤さんは、気さくな方で新しい職場に馴染めない僕をいろいろと気遣ってくれ、ところどころで困ったことはないか声を掛けてくれた。




入職して3か月程経ったころ、職場の雰囲気や他の職員との人間関係で悩み、この職場で仕事を続けてゆくことはもう無理なんじゃないかと考えたことがあった。


理由は、介護の現場にある独特な空気感だ。


介護職は、対人援助職や直接援助職とも呼ばれるほど、人と人との関わりが100%要求される職場である。一般にサービス業と呼ばれる職種は、営業、販売、飲食店のスタッフなど様々だが、人と人とが直接触れ合うことは稀で、人と人の間になんらかの商品が介在している。この場合、商品を売る側、買う側どちらの立場に立っても取引の中心にあるのは商品となる。商品の品質が確かなものであれば、売り手買い手の関係性は問題にならないだろう。多少横柄な態度を取られて嫌な思いをしたとしても商品の品質で満足できる。しかし介護の現場では、介護する側とされる側双方が直接人間として向き合い、また介護職としては直接接することそのものが商品。つまり自分自身のあり方がそのまま商品となるため、サービスを受ける側の印象によって満足度が全く異なってくる。そして提供するサービスのあり方に対する考え方も介護職員一人一人異なるため、職員同士の不満も生じやすくなる。世間で介護の現場はきついし離職率も高いと認識されている主な原因を辿ると「商品という実体のないサービスを提供する特殊な仕事だから」と表現出来るのではないだろうか。であるからこそそこで働き続けるには、明確な目標意識が必要になってくる。


職場内での人間関係に疲弊しつつあった僕に、佐藤さんは何度も声を掛けてくれて、今の自分の気持ちを本音で話すことが出来たこともあり、その危機を乗り越えることが出来たのだった。


そういった意味で、僕にとって佐藤さんは恩人であると言えるだろう。




一番街で働き始めて3年を過ぎたある日、僕は佐藤さんをコンサートに誘った。

地方ではなかなか観ることが出来ない有名なロックバンドのコンサートが10数年ぶりに開催されるとの告知がインターネット上に掲載されていたからだ。


それは、僕の佐藤さんに対する好意の表れだったし長年に渡って支えてもらったことに対する恩返しの意味を込めたものだった。


チケットがなかなか取れない中、たまたまオークションで1枚3万円で売られていたが思い切って2枚落札しコンサートへ行くことが出来た。




コンサートの後、会場近くのファミリーレストランで食事をしてそれぞれの家路に着いたことを今でも鮮明に覚えている。


つづく

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