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ぐうたら姫の後宮生活  作者: こでまり


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58 仮病

 中務卿を送り出した数日後、いつものように書類に目を通していた。


 中務卿の処分は帝が部屋に閉じこもっているので正式な処分を出せなくて結局、屋敷で謹慎となっている。ただ、本人はすべてを認めて調書も取られているため降格処分は免れないことは決まっていた。

 どこまでの罪を問われるのか気になるがそれよりも心配になるのは、帝は未だに部屋から出てこないという。既にかなりの審議が止まっているのと少し前から調べていた不正のことで処分されている公達がいるため、空席になっている役職を巡って水面下での争いが始まっているらしい。


 不正をしている者達は思ったより多く、余罪を調べるため麗景殿には次々と関連書類が届けられている。これ以上処分される公達が増えたら宮中の公達がいなくなるのではないかと心配になるくらいだった。その為、麗景殿は現在、宮中で一番恐ろしい場所と認識が変わりつつある。


 当初、東宮妃の力量を見誤っていた者達が交代で訪れるようになった。今日の来訪者は眠りの弁輔だ。


(まだいたのか)


 とっくの昔に処分されているとばかり思っていたが、大きな不正は見つからず今のところ処分保留となっている。


「東宮妃様にはご機嫌麗しく。本日は珍しい紅をお持ちしました」

「なにが目的ですか?」


 面倒なのでさっさとお引き取りいただきたい。その為、態度に出ていたのかもしれない。眠りの弁輔の顔は引きつっていた。


「目的などありません。こちらの紅はわが領地でとれた花から作られたものでとても珍しいのです。ぜひ東宮妃様にとお持ちしました」


 先日の侮蔑の表情から一遍して必死にこちらの機嫌を取ろうとするのが分かるだけに腹立たしい。こうも態度を変えられるのかと冷めた目で眺める。皇太后への面会は出来ないのでこちらの乗り換えようという魂胆だろうか。


「紅葉殿。これはどういうことでしょうか?」


 わざと部屋の隅に控えている東宮の女房、紅葉に声をかけた。

 左中弁は東宮の女房がいることに今、気づいたようで振り返りその姿を確認すると青ざめていた。


「贈賄は認められていませんので東宮様にご報告いたします」


 流石と言うべきか、左中弁を見ることもなく答えを出してくる。何物にも動じる様子もないことが左中弁を威圧しているかのようだ。


「いや、そんなつもりはありません。わ、私はこれで失礼します」


 左中弁は慌てて部屋を飛び出していった。持ってきた荷物を置いて。


「紅葉殿。これはどうしましょうか」

「左中弁殿に返しておきましょう」


 香奈と紅葉で左中弁が持ってきた荷物をさっさと片付けて、他の女房へ渡す。

 一連の行動は流れ作業のようのごとく毎日のように行われている。


 その合間に書類を調べているが、なかなか進まない。

 麗景殿の女房や香奈、紅葉も一緒になって調べていくがあまりにも膨大過ぎるのといろいろありすぎて集中できなくなっていた。


「東宮妃様。一先ず、皇太后派の人物を優先に調べましょう」


 紅葉の提案で紅葉と香奈が書類を分別してくれ、優先順位をつけてくれた。

 午後からは部屋の隣に作られた東宮の仮執務室で東宮が執務をしている。その為、気を抜くことが出来ずに緊張が続いていた。


 東宮は午前中、朝議でいないが午後からはここにきて調べ物をしている。その間に臣下次々やってきてなにやら報告を受けている。

 夜もかなり遅い時間に綾の寝所にやってくるが隣で寝るだけで何もしてこない。朝も早い時間から書類に目を通し、報告を受けてから会議に向かっているようだ。


 何もしてこないのは何か理由があるのだと思うが最近の様子からそんなことを聞けない。

 どうやら朝議の前と後に大臣たちと帝の元へ行っているらしいが会うことが出来ないとボヤいていた。


 それを見ていると自分も出来るだけ力になりたいと思っているが部屋に積まれた書類の山を見ていると気が遠くなる。


 ガタン。

 急に大きな音がして我に返った。

 音は隣の東宮が使っている部屋からした。みんなの視線がそちらに向かうが東宮は急いで立ち上がり、報告をしてきた公達と部屋を出ていった。


「なにがあったの?」

「確認してきます」


 紅葉が素早く部屋を出ていく。

 先程まで東宮の部屋に居た数人は一緒に出ていったようで補佐をしている臣下が一人残っていた。


「なにがあったのですか?」


 隣で一人書類を片付けている人に声をかけてみる。


「東宮妃様。帝が倒れられたと連絡が入りました」

「倒れたってどういうこと?」


 病気か何かだろうか。今、この状況で帝に何かあったら皇太后のことはどうなるのだろうかと不安になってくる。


「それが、数日前から体調が思わしくないようでして、寝込まれていました」


 初めて聞くことだ。香奈も知らないようで首を振っていた。

 もしかして、私に心配をかけないようにと伏せられていたのだろうか。


「あの、東宮妃様にはご心配をかけるなと言われていまして」


 床に伏しながら臣下が言う。きっと、東宮からのお叱りを気にしているのだろう。


「大丈夫です。貴方から聞いたとは言いません。仕事を続けてください」


 それを聞いて安心したのか臣下は仕事に戻った。

 暫くして紅葉が戻ってきた。香奈にお茶を入れてもらい、紅葉と香奈と共にお茶を飲みながら紅葉の話を聞いた。


「数日前から帝は体調がすぐれないと言って寝込まれていたようです。ただ、それは仮病です」

「はぁ? 仮病」

「はい。帝は皇太后様のことで問題が起きるとよく寝込まれるのです。そこへ皇太后様が看病に来られて病気が快復して公務が出来るようになるという筋書きです」


(あぁ。以前に聞いたわ。)


 いい年をした男が自分の思い通りにならないことを理由に駄々をこねているのだ。呆れてくる。はっきり言って帝と皇太后が示し合わせてそう仕向けているのが分かる。しかし、今回は皇太后が謹慎処分で部屋から出ることは出来ないのと外部との接触も経たれているので帝が寝込まれていることや現状は知らないはず。もしや、東宮と交渉しようと思っているのではないだろうか。


「紅葉殿。一つ聞きたいのだけど」

「なんでしょうか」


 紅葉は自分が言おうとしていることが分かっているようで笑みを浮かべながら返事をしてくる。


(それなら遠慮はいらないわね)


 紅葉に今の状況と今後のことを聞いた。東宮の側近として仕えているのなら、今後の状況も予測がつくはず。そして、返ってきた答えは綾が想像していたものと同じだった。


「紅葉殿、香奈。なんとしてもここの書類から証拠を見つけ出しましょう」

「はい。東宮妃様」


 三人は書類に目を通した。

 そこから出てきた内容で不審なものは頭中将や兄の左近中将に知らせて更に調べてもらった。


 その夜遅くに東宮様が戻ってきた。


「おつかれさまです」


 夜食を用意して出迎えた。

 東宮は私が起きているとは思っていなかったのか少しだけ驚いていたが、私がすべてを知っていることを悟ったようで座って準備しておいた夜食に手を伸ばした。


「すべて聞いたのか?」

「帝が倒れられたとか」

「今日は毒薬を飲まれた」


(毒薬って、自害するつもりだったのか?)


 淡々と話す東宮は憔悴しきっている。


「周囲の者の同情を買うためだ。少し口をつけて舌が痺れたようで器を投げ出してそのまま突っ伏した」

「そうでしたか。それでしたら、このまま寝込まれて二度と出てこられなければいいのではないですか?」


 あまりにも腹立たしくて思わず言ってしまったが、これも紅葉から聞いた話から問題ないと思っている。


「そうだな。そろそろ、最後通告でもするか」

「もう少しお待ちください。必ずや東宮様のお力になれる証拠を集めてみます」


 皇太后派の重臣の大半が不正に関わっていて、その処分が次々言い渡されている。このままいけば、今分かっている公達だけでもいいのだが、もう一押しほしい。それを探っている最中だ。皇太后を決定的に追い詰める証拠を探しだす。

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