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45 恋文

 綾は目の前におかれた朝餉を食べている間に香奈は女房に話を聞いていた。


「どうやら毒見役の者が体調を崩していて代わりの者が毒見をしたため遅くなったみたです」


 どんな形で狙われるか分からないので毒見も通常より厳重に行われているが、その毒見がきちんとできていないという理由で朝餉の膳が届くのが遅くなった。

 秋の除目があり公達たちの挨拶を受けてから早一か月がたった。その間、何かあるかと緊張した日々を過ごしていたが今のところ何も起こっていない。

 そんな時期だろうか皆の気が緩み色々と不手際が重なり届けられた朝餉にやっとありつけたのだ。


「本当に今日はどうしたのでしょうか」


 先程から香奈の愚痴は止まらない。

 いつもならとっくに女房姿で例の部屋に籠っているのだが今日はどうしようかと考えながら朝餉を食べていた。

 最近は兄か頭中将のどちらかが毎日顔を出し近況を知らせてくれるのだがその二人も今日はまだどちらも来ていない。もっと言うなら東宮も昨夜から一度も姿を見ていない。こちらもいつもなら夜か朝のどちらかで護衛姿の東宮を見かけるのだが昨日も今朝も見ていないのが気になった。


「宮中で何かあったのかしら?」


 綾は考えていたことを口にする。


「それにしても、文の一つも届かないのは少し気になりますね」


 香奈の言うことももっともだ。兄も頭中将もこちらに来ることが出来ないときは必ず文を届けてくれる。

 二人がここに来るのはご機嫌伺いだけではない。皇太后や新右近中将などの動きや東宮の命で調べて分かったことなどを知らせに来てくれていたのだ。それが昨日から何も連絡がないことが綾も気になっていた。

 食事を終えて着替えて例の部屋に行こうと思ったが何となく思いとどまった。


「姫様?どうされましたか」

「やっぱり気になるわね。本当に文は届いていないのかしら」

「ちょっと聞いてきます」


 香奈が急いで部屋を出ていく。綾は一旦座って待つことにした。

 何かあれば必ず連絡をくれていた二人が何も知らせてこないこと東宮の姿を見ていないのは何か起こっているのだとしたらあの部屋でのんびり観察などしていられない。

 手を握りしめ口元を塞ぐ。気を付けていないと何か口走ってしまいそうになる。嫌な考えが浮かんでは消え、また浮かんできて不安が襲ってくる。


「姫様。やはり文は届いておりませんでした」

「そう。ありがとう」


 綾は何となく嫌な予感がしてきた。その為今日は例の部屋に行くのを止めた。


「香奈、誰かに宮中の様子を探らせてきて」

「分かりました」


 香奈が再度部屋を出ていく。

 落ち着かなくて扇を開いたり閉じたりを繰り返していた。誰とも連絡が取れないことがこんなにも不安になるのか。綾は大きく息を吐いた。落ち着かない。みんな無事だろうか。

 香奈が戻ってきたが何か問題が起きている様子はないのが分かった。


「良智様宛に文を届けさせました。返事を待ちましょう」


 香奈は兄、良智の職場に文を届けさせたようだ。

 どうか何もなければいいのだが。

 あまりにも心配しすぎて何も言葉が出てこなかった。香奈はお茶を用意したりしてこまごまを動いていたが綾の気持ちを察してくれているのか何も言わなかった。そうして二人が兄の返事を待ちわびていると見知らぬ女房がやってきた。


「頭中将様からの文です。お返事をもらってくるように申し使っております」


 少し威圧的な物言いの女房から文を受け取り見る。

 綾は目を疑う。もう一度読み返す。


 傍で香奈が不思議そうにしているが他の女房がいるので綾の手元に文を覗き込むようなことは出来ない。

 綾は文を持ってきた女房をチラリとみる。こちらを凝視している目つきに早く返事を書けと訴えているようにも見えた。どうやら返事を書くまで帰る気はないようだ。綾はそっとため息をついた。


「香奈、文の用意を」


 香奈が文の用意を持ってきた時にそっと香奈に見える場所に頭中将からの文を置いた。


「姫様。文箱をご用意しましょうか」

「そうね。飾りひももお願いね」


 綾は香奈が用意した文箱に何重にも封をした文を入れ、更に飾りひもは特別な結び方を香奈がした。


「これを文の送り主に」


 綾は文箱を渡すと女房は帰っていった。


「姫様。あの文は」

「恋文よね。どういうことかしら」


 みんなと連絡が取れない状況で頭中将からの恋文の意味を考えていると今度はまた別の女房がやってきた。

 今度は香奈が対応している。

 忙しい日だと香奈と女房のやり取りを聞いていると帝と言う言葉が聞こえた。


 香奈と共に入ってきた女房は綾の前まで来ると深々とお辞儀をしてとんでもないことを言った。


「帝がお呼びです。いまから私と一緒に清涼殿へお越しください」

「えっ?」


 綾は手にしていた扇を落としてしまった。

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