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41 帥宮の告白 後編

「内裏の火災は皇太后様のお父上が画策なさったことです。先帝は第二皇子として生まれましたが、当時の東宮様とは知識も見分もそして人心も遥かに劣っていたようです。そこで先々帝は早くから宮中から出して後見になる者との縁談を速めたと聞いています」


「当時の東宮様を亡き者にして帝に据えたということですか」


 綾は宮中では到底口に出来ない内容を聞く。


「そうです。ご自分の屋敷を里内裏とすることも計算済みだったようです。火傷を負って生死を彷徨っている東宮を廃し、第二皇子を東宮にすることに成功したのです」

「先帝には確か、皇太后様より先に男御子が生まれていたと記録にありましたが……」


 頭中将が低い声で呟くように聞く。多分、ある程度想像はついているのだろう。綾は男御子がいたことは初めて聞くが何となく分かってしまった。


「皇太后様が手を下しました。死因は私を狙ったものと同じです」


 やはり。


 は~っ。

 頭中将がため息をつくのが聞こえた。


「誰も止めなかったのですか?」


 頭中将も怒っているようだ。先ほどより声が更に低くなっている。


「皇太后様は恐ろしい方です。宮中での火災の時、東宮様をお生みあそばされた女御様や他の親王様たちを部屋に閉じ込めて出られなくしたのが皇太后様です」

「当時の皇太后様は宮中にはおられなかったはずですよね。そんなことが可能とは思えないのですが」


 皇太后は自分の部屋と比較的近いところに第一皇子が住んでいたため、火災から身を守るためと疑いを向けられないために皇子をつれて里帰りをしていた。


「女房を買収していたのです。女御様がいつも部屋に居る時間を調べて、その時を狙って部屋の外から鍵をかけ、更には下男を使って渡殿に火を放ったそうです」

「では、女御様は逃げ遅れたのではなく?」

「そうです。部屋から出ることが出来なくて亡くなったのです」

「そんな!」


 綾は口元に手をあてる。手が震えてきた。言葉を発したいが唇も震えて何も話すことが出来ない。人の所業とは思えない。


「先帝は皇太后様の所業を分かっておいででした。その為、先帝は今上帝に遺言を残しています」

「どんな遺言ですか?」


 綾はまともに聞いていられなくなっていたが頭中将は落ち着いていた。綾はただ静かに二人の様子を見ていた。


「これ以上皇太后様に力を持たせないためにも皇太后様の一族の出世は望めないようにしたのです。皇太后様のお父上も、その後を継いだ者も大納言止まりでした」

「今上帝はどこまでご存じですか?」


 綾もそこは聞いておきたかったところだ。綾を承香殿に潜入させるのを決めたのは帝だと聞いている。帝はどこまで知っていて本当は何をしたかったのだろうか。


「先帝の遺言以外何も知らないと思います。先帝もあえてそこは話さなかったと聞いていますから。しかし、先帝が亡くなり一華殿が女御として入内したときに皇太后様はその父を右大臣に据えることを帝に助言したのです」

「今、東宮様が後宮の問題にあたっているのは今上帝からの命だと言われていますがもしかして……」

「そうです。皇太后様が今上帝に助言したのです。これしきの問題を解決できなければ政を成せないと言って」

「その後宮の問題を皇太后様自身が起こしていたはずですよね」


 綾は頭中将を見るがその頭中将はまっすぐ帥宮を見ていた。頭中将は帥宮を問い詰めている。


「既にご存じでしたか。そうです。柾良親王を東宮にするには、敦成親王が邪魔だったのです。その為、直貞親王を誘拐して事件を起こそうと考えていたようです。もし、あのまま直貞親王が戻らなければ今頃、東宮様の責任問題に発展していたでしょう」

「それに関してはこの綾姫様が守ってくださったお陰で事なきを得ました。しかし、どうしてそのことを?」

「私と式部宮はずっと皇太后様の動きを見張っていました。そして、これを手に入れたのです」


 帥宮が懐から取り出したのは古びた文だった。頭中将が受け取り中を見ている。


「これは!」


 綾は気になって覗き込むと頭中将は文を綾に見えるようにしてくれた。そこには皇太后が書いたと思われる文が二通あった。一つはかなり古いもので紙は色あせていた。もう一つはまだ綾の知っている内容が書かれていた。


「それを東宮様にお渡しください」

「これはどうしたのですか?」


 頭中将は帥宮にきつく睨む。

 簡単に信じることなど出来るはずもない。それは今までの話の内容から誰が味方か敵かなど今すぐ判断できることではないからだ。だが、帥宮も頭中将の目をしっかりと見ている。


「一つは火災があった時、宮中で拾った物です」

「誰が拾われたのですか?」


「先太政大臣です」


 綾はやっと落ち着いてきた。そして、先太政大臣と聞いて父様を思い浮かべた。父様の実家、綾には祖父に当たる方だ。秋の除目で隠居することになり、後任に弘徽殿女御様のお父上で左大臣がなることが決まっている。


「どうして先太政大臣がこの文を拾ったのですか?」

「部屋に閉じ込められた女御様は先太政大臣の姉君だったからです」


 姉である女御を救出しようと後宮に行った先太政大臣は火の回りが早く、近づくことが出来なかったそうだ。逃げ出す女房とぶつかったときに文を拾ったが既に女房はいなくなっていてその後同僚たちに引きずられるように宮中から逃げたそうだ。家に戻り拾った文を見て驚愕したという。


「もう一つ、こちらはどうされたのですか?」


 頭中将は新しいほうの文の出どころを聞き出している。


「それは中納言様から譲ってもらいました」

「中納言殿がどうして?」


 直貞親王の連れ去りに中納言が関わっていると言っていたがその証拠もなくそれ以上の調べはされていなかったはずだ。その中納言がどうしてこの文を持っているのか。


「これは直貞親王が宮中から連れ去ることが書かれています。そんな文をどうして中納言殿がもっておられたのか」

「中納言様は藤壺にいた女房が先右近中将殿の縁者だと気づいて調べていたそうです。その女房が持っていた文だそうです」


 例の捕まえた女房のことだろう。疑わしいところは見当たらないが、すべてを信じることはやはり出来ない。だが、頭中将は持ち帰ることにしたらしい。


「よろしいのですか」

「東宮様がなさろうとしていること、そして東宮妃様がされていることをお聞きしてこの文を有効に使えるのは東宮様しかいないと判断しました」

「ありがとうございます。必ず、暴いて見せます」


 頭中将は懐から新しい紙を取り出し、それに文を包み懐にしまった。

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