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4 夜盗

 綾と香奈を連れ去った男たちは二人を連れて建物の中に入りこむ。

階を駆け上がり迷うことなく近くの局に入り扉を閉めた。それがあまりにも自然で綾は空恐ろしく感じる。


 女房の部屋と言った小さめの部屋の畳の上に綾と香奈は降ろされた。

 夜盗がこんな奥深くの殿舎の造りを把握しているということはこの二人から脱げだすことは難しい。誰か助けを呼ばないといけないがそれも出来るか分からない。

 それよりも香奈は気を失ったままだ。香奈を置いて逃げることは出来ない。


 男たちは綾と香奈を丁寧に扱ってくれる。すぐに害することはないと思えるが油断は出来ない。

 二人の男たちは入ってきた扉から外の様子を伺っている。


 綾はその隙に香奈を傍に寄った。

 外にいた検非違使たちはすでに通り過ぎてどこかに行ってしまったようだ。ここで声をあげても誰かに気づいてもらえる確率は低い。


「香奈」


 綾は声を掛けるがすぐに香奈を抱えていた背の高い男が戸口からそれを止める。


「静かにしてください」


 綾と香奈を連れ去った男たちは夜盗ではなく公達に見える。仕草や立ち振る舞いがそう思わせるのだ。だが、東宮妃である自分を連れ去るとは不届き者だ。

 綾は俯きぎみに体を相手から見えないようにして懐に隠している小刀にそっと手を伸ばす。一撃くらいにはなるはずだ。


「それは出さない方が良いかと」


 綾の視界に男の足元が見えた。いつの間にか傍に来ていた男は綾に告げる。

 下を向いたままその男の足元を見ながら懐の小刀を握りしめていた手を離す。


「ヨリ、侍女たちを連れてきてしまったがどうする?」

「時康様、こちらの方は東宮妃様ですよ」


 そうですよねとヨリと呼ばれた背の高い男に念を押される。

 綾は初めて男二人の顔をしっかり見る。綾はこの二人を知らないが、身元がバレている以上、否定しても意味がないと悟った。


「えっ?東宮妃だと!」


 時康と呼ばれた男が驚いていた。


(東宮妃と知っていてこの所業か。一体何者なんだ)


 ヨリと呼ばれた男は口元に人差し指をあててこちらを見ると時康と呼ばれた男が綾を連れて屏風の後ろに隠れた。

 ヨリが再び戸口近くに行き扉を開けると若い男が片膝をついて控えていた。


「どんな様子だ」

「二人捕まえましたが、残りは取り逃がした様子。今、検非違使が追っています」


 戸口の外に控えた男が答えていた。

 綾は屏風の奥から外の様子を伺う。


(検非違使が追っているのはこの男たちではないのか?)


 ヨリが屏風の後ろに隠れている綾の元へ来た。

 側で気を失っている香奈を抱き上げる。


「どうするつもりですか?」


 綾はヨリを睨み付けながら言う。


「貴方もご一緒に」


 綾は同じく屏風の後ろに隠れていた時康を見ると手を振ってきた。

 綾は香奈を連れて歩くヨリの後ろをついて行くと先程、ヨリと話していた若い男に香奈を預ける。


「こちらの方たちを麗景殿へお連れするように」


 ヨリが若い男に伝える。


「この者があなた方の殿舎までお送りします」


 ヨリはどうぞと綾を局から出るように促す。

 綾は局を出て若い男の前に立つと男は香奈を抱きかかえて綾にお辞儀をする。

 若い男の後ろに二人の男もいた。


「行きましょう」


 若い男が綾に告げると後ろに控えていた男が綾の後ろに立つ。

 歩き出して、そっと後ろを見ると先程までいた局からヨリと時康が出てくるのが見えた。


(あの二人は一体誰だ?)


 疑問を感じながら、目の前の男を観察した。

 どこかの貴族の子息といった感じだ。後ろの二人もそれなりの身分のように見える。

 麗景殿につくと香奈を抱えた男が振り返る。


 綾は先を歩いて、自分の部屋に入り、綾がいつも寝ている寝所に香奈を横たえてもらった。


「あなたはどこで休むのですか?」


 香奈を運んでくれた男が聞いてきた。


「部屋はまだありますし、この部屋の端でも寝ることは出来ます。それより、ここまで送り届けてくださりありがとうございます」


 綾は丁寧にお辞儀をした。相手の名前を聞いた方がいいのかもしれないが、先ほどの二人は身分を隠している様子に見えたので聞くのを止めた。


「あの、怖くはないのですか?」


 男は不思議そうに綾の顔を見た。深窓の令嬢なら殿方と会うときは御簾越しが当たり前なのに綾は顔を隠すこともなくしっかりと男を見据えている。


「助けていただいたのに怖いことはありません。それよりもあまり長居をされますとあらぬ誤解を招きます」


 綾の言葉の意味を理解したのか男は部屋を退出していった。綾は男たちの出て行った先を部屋の陰から見た。

 こなれた感じで闇に紛れていく姿はかなり訓練されているのが分かる。

 二人捕まったと言っていた。それに検非違使が追っているとも。


 気が付くと目の前には警護の者が増えているようにも見えた。先ほどの者が手配したのか。

 綾は気を失っている香奈を見る。

 目が覚めた時になんと言おうかと考えた。遠くで松明が揺れているのが見える。誰かが忍び込んだかで捜査が大々的に行われているのだろう。

 香奈が気を失っているのは好都合だ、今夜のことは言わない方がいいと綾は悟った。これ以上心配はかけられない。


 綾は隣の部屋から小袿を二つ持ってきて、一つを香奈にかけた。

 もう一つの小袿に包まり香奈の傍に横たわる。


 魑魅魍魎か……。


 人がなすことなら対処は出来る。それが自分に向かっているのかどうかを見極めないといけない。自分の命が狙われるのであれば巻き添えで侍女たちにも被害が出る。ことと次第によっては家にも迷惑が掛かる。

 それに東宮様にも迷惑をおかけしてしまうかもしれないそう思うと後宮は案外のんびり過ごせないものだと改めて思った。

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